図1●パネルディスカッションの会場風景
図1●パネルディスカッションの会場風景
[画像のクリックで拡大表示]
図2●C&Cの姿に関する30年前の予想
図2●C&Cの姿に関する30年前の予想
[画像のクリックで拡大表示]
図3●慶応義塾大学大学院教授の金子郁容氏が提唱する「コ・モビリティシティ」
図3●慶応義塾大学大学院教授の金子郁容氏が提唱する「コ・モビリティシティ」
[画像のクリックで拡大表示]

 12月6日,東京国際展示場で開催中の「iEXPO2007」において「これからのC&Cイノベーション」と題したパネルディスカッションが行われた。壇上には各方面の専門家が登壇し,30年後のC&C(コンピュータ&コミュニケーション)の姿について意見を交わした(図1)。

 まず最初に,NECの執行役員で中央研究所所長の國尾武光氏が,1977年に同社の小林会長(当時)が初めて提唱したC&Cについて紹介した。小林会長は,30年前にすでに「21世紀の初めには,『いつでも,どこでも,誰とでもお互いに顔を見ながら話ができる』ようになり,通信,コンピュータ,テレビが統合されるだろう」と予想していた(図2)が,IPプロトコルによるインターネットがここまで普及するとは考えていなかったという。

 「30年前に,現在のコンピュータネットワークの世界を思い描いておられたとは素晴らしい」と,東京大学大学院教授の江崎浩氏は,小林会長の先見性に感嘆を示した。その一方で,「現在のコンピュータとネットワークは,ただくっつけただけという状態。融合というところまでは行っていない」とする。また従来,C&Cは,経済合理性の追求のために使われてきたが,これからはもっと人間が主役になれるような利用方法を模索すべきと提唱した。

 「これからのデジタル技術の役割は,従来の時間や空間の概念を壊すことにある」と江崎氏は話す。瞬間移動,透明人間,ドラえもんの竹コプターなど,かつてはSFやアニメの世界にしかなかった概念が,今や“情報のデジタル化”によって,現実世界でもほぼ同じようなことが実現できるようになった。「かつては“超能力”と呼んでいた,かっとんだ五感というものに,どんどん挑戦していくべきだ」と江崎氏は若い技術者を鼓舞する。

 また,コンピュータ技術者から教育者に転じた慶応義塾大学大学院教授の金子郁容氏は,「ソーシャルキャピタル(社会のつながり)を高めていくことこそ,コンピュータネットワークの重要な役割」と強調した。

 日本ではこの数十年間,社会のつながりがどんどん希薄になっている。反対にネット上では様々なコミュニティがたくさん生まれている。このネットの世界と現実の世界の橋渡しをいかにうまくやるかが今後の課題なのだ。金子氏はその1つのモデルとして「コ・モビリティシティ」の構想を紹介した(図3)。例えば,遠くに離れて住んでいる年老いた母親を病院に連れていくとき,息子が自宅から遠隔操作で無人の電気自動車を運転して安全に母親を送迎するといったことができる。

 一方,トヨタ自動車技監の渡邉浩之氏は,未来の交通社会の視点からC&Cの役割を展望した。環境・エネルギー問題が深刻さを増す中,これからの自動車は電動ハイブリッド化により燃費向上が進むと同時に,ユビキタス化,ロボット化によって自律的な安全走行性能が高まっていく。「安全で快適なモビリティ社会は,ITS(高度交通システム)やTDM(交通需要マネジメント)などインフラの整備が不可欠であり,自動車との連携においてコンピュータネットワークは重要な役割を果たすことになる」と,渡邉氏は述べた。

 最後にNECのC&Cイノベーション研究所所長の山田敬嗣氏がこう締めくくった。「21世紀は,技術も,社会の仕組みも,人間の生活も,様々なイノベーションを同時に進行していかねばならない。この場合,個人が自分の幸福だけを追求しているのではダメで,世界政府のようなものを作り,グローバルな問題を世界中の誰もが理解し,意見を述べ合って,叡智を結集できるような環境を作る必要がある。それを実現するのが,これから30年間のC&Cの重要な役割と認識している」。

■変更履歴
本文7つ目のパラグラフ「一方,トヨタ自動車技監の渡邉浩之氏は,~重要な役割を果たすことになる」と,渡邉氏は述べた。」を追記しました。[2007/12/13]