C&Cユーザーフォーラムの基調講演に登壇した,東京大学大学院情報学環の坂村健教授
C&Cユーザーフォーラムの基調講演に登壇した,東京大学大学院情報学環の坂村健教授
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 2007年12月6日,東京国際展示場で開催中のNECのプライベート・セミナーC&Cユーザーフォーラムの基調講演で,東京大学大学院情報学環の坂村健教授が登壇,「イノベーション基盤としてのユビキタス」を講演した。

 同氏は冒頭,世界的なコンピュータ教育の潮流が要素技術から,それら技術をどのように使っていくかというインフラ的発想に変わっていることを指摘。日本もこの傾向を強めていくべきだと主張した。

 要素技術的な発想をすると,個別の技術は発展させられるが,世の中の大きな仕組みを変えるような「イノベーション(革新)は起こせない」。ところが,これまで日本は問題に直面するとすべて技術で解決してきたのだという。例えば,バスの料金徴収機。お札,コイン,ICカード,磁気カードなど,すべての料金支払い手段に対応している。ところが,こうした技術で解決する方法はコストがかかる。実際,「発展途上国から日本に来た方がバスに乗り,この機械に感動して自国で導入しようとしたが,この機械の導入でバスが10台買えることが分かり断念した」という。

 同様の例として挙げたのがETC(自動料金徴収システム)。他国にはなくて,日本の料金所についているのが,不正進入防止用の遮断機。ETC装置を持たずに進入してきた車を排除するためのものだが,設置費用は高い。「日本全国で考えると膨大な予算が使われているのは間違いない」。このほか,徴収するスタッフの賃金なども必要だ。

 こうした無駄を省くとともに革新を起こしていくためには,「制度と技術をバランスよく使っていくことが重要」とした。例えば,先のバス料金徴収機で無駄を省く例としてスウェーデンを挙げた。同国ではバス料金をすべてICカードで徴収し,コインを受け付けない。ただし,ICカードは住民基本台帳と一緒になっており,料金徴収機にかざすと自宅の住所がドライバーに知らされ,一番近い場所でバスを止めてくれるという。

 ETCの例では,シンガポールを挙げた。シンガポールでは法改正により,ETCを付けていない車は公道を走れないようにした。「当然,料金徴収所に遮断機は必要ないし,全車が導入したために量産効果でETC装置を安くできた」という。

 また,米国では「障害者向けに13インチ以上のテレビには必ず字幕表示機能を入れなければならない」という法律を作った結果,障害者だけでなく,すべての人が便利になる効果が出た。具体的には公共機関で音を伴わないニュース提供が可能になり,非英語国民の語学学習に役立った。しかも,文字データと映像が結びついたために,動画の検索ができるようになったという。「日本で,動画検索をするという話になると,映像認識と音声認識を使って,という具合にすべて技術で解決しようとする。もちろん技術開発は重要だが,時間とコストを考えるとどうだろうか」。

 このように制度を変え,ある強制力を持たせてインフラを作れば,次のイノベーションが生まれる。坂村教授は今後の方向性として仮想世界と現実世界をつなぐインフラの導入を挙げた。具体的には,uIDと呼ぶ128ビットの世界固有データをモノに埋め込み,インターネットを介して検索することでさまざまなイノベーションを生むことができるという。uIDにくくりつけられる情報としては,モノの製造年月日などのほか,東京都港区のXビルの7階にある右から3番目のラックの2段目といったこまかい位置情報なのである。こうしたIDを至る所に埋め込むことで,障害者の歩行支援などだけではなく,製品のトレーサビリティ,車などの自立移動支援,ロボットの外部認知/誘導などの新しい市場が生まれてくることが期待されるという。