写真●左がインド・ビジネス・センターの島田卓社長、右がインフォシスのシュリナート・バトニ取締役
写真●左がインド・ビジネス・センターの島田卓社長、右がインフォシスのシュリナート・バトニ取締役
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 NECグループの展示会「iEXPO 2007」で、「IT大国インドに学ぶ人材育成法とその成長戦略」と題した講演が催された。講演は、インド・ビジネス専門の経営コンサルタントを手がけるインド・ビジネス・センターの島田卓社長と、インドを代表するSIベンダーであるインフォシスのシュリナート・バトニ取締役の対談形式で進められた(写真)。

 講演は、島田氏が活況に沸くインド経済の実態を説明することから始まった。インドのGDPは直近3年間で平均8.5%の成長を遂げている。昨年だけを見ると9.4%と平均を上回る成長だった。現在のIT市場の規模は約300億ドル。これが2010年には600億ドルに倍増すると予測されている。インフォシスも年42%という著しい勢いで成長を遂げている。2007年3月末の業績は、売上高が約4000億円、経常利益が約1100億円だった。

 島田氏は、インフォシスの成長の源泉がどこにあるのかをバトニ氏に尋ねた。バトニ氏が挙げた強みは、二つあった。一つは、世界に目を向けてビジネスを展開していること。同社は、米国や欧州でアウトソーシング事業のシェアを伸ばしつつある。もう一つは、大学など高等教育を修了した人材が大量にIT業界に流れ込んでいること。「顧客には、我々のサービスを通じてこれら優秀な人材を活用していただける」と、インフォシスのサービスを使うことが顧客のメリットになる点を強調した。

 高等教育を修了した優秀な人材がIT業界に流れ込んでくる理由は、インフォシスを始めとしたSIベンダーの努力によるところが大きいようだ。以前までインドでは、こうした優秀な人材に見合った働き口が存在しなかった。その結果、米国への頭脳流出が起こっていた。そこで、SIベンダー各社は彼らを引き止めるための魅力ある職場環境の整備に力を入れ始めた。具体的には、「学びながら働くという意識を保てる環境だ」とバトニ氏は説明する。インフォシスでは、会社の敷地を大学と同じように「キャンパス」と呼んでいる。社員には年15日以上の研修プログラムを用意する一方で、大学並みのカリキュラムを整えた研修センターを構築。自社だけでなく各国の企業に門戸を開放している。

 これに対して島田氏は、「人材教育の環境を充実すると社員の独立意欲が高まり、そこから人材が流出する懸念はないのか」と指摘する。その対応策として、バトニ氏は「社員が自由な発想で働ける職場環境作りが大切だ」と明かす。すべての社員が企業家精神を持つべきだ。その上で、「そうした精神から生まれた発想を、経営者がすくい上げてやることが必要だ」とバトニ氏は言う。

 講演には「はたしてインドと日本は良きビジネス・パートナーに成り得るのか」というサブタイトルが付いていた。これを受けて、対談の話題は日本とインドの関係へと広がっていく。島田氏は、日本とインドの関係を中国とインドの関係と比較しながら話を進める。2000年3月末時点の貿易高は、日印が40億ドル、中印が25億ドルだった。これを2006年3月末の統計で比較すると、日印の60億ドルに対して、中印は175億ドルへと急拡大している。日印のビジネスが拡大しないはなぜなのか。その点を島田氏はバトニ氏に問うた。

 バトニ氏の見解は「心理的なバリアーがあるのではないか」というものだった。インド経済は90年代以降、大きく変貌を遂げた。現在、携帯電話は週100万台ずつ売れている。10年前には人口の5割を超えた低所得者層が17.2%にまで低下し、可処分所得も増えている。ところが、日本人は90年代以前のインド経済の姿を抱き続けている。「現在のインドは各国企業にとってチャンスが広がっている市場だ」と、バトニ氏は日本企業の参入を呼びかけた。