写真1:トランスポンダについて説明するNECの藤江一正副社長(左)と,宮嵜清志日経ソリューションビジネス編集長
写真1:トランスポンダについて説明するNECの藤江一正副社長(左)と,宮嵜清志日経ソリューションビジネス編集長
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写真2:レンズの代わりに監視衛星に搭載される「シリコン・カーボン・ミラー」
写真2:レンズの代わりに監視衛星に搭載される「シリコン・カーボン・ミラー」
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 「NECは月周回衛星『かぐや』開発のプライム・コントラクタ(主契約者)であり,開発全体の取りまとめのほか,トランスポンダ(中継器)や精地球センサーなどの主要部品を開発・製造した」──。NECの藤江一正副社長は12月5日,
,宮嵜清志日経ソリューションビジネス編集長との対談において,同社の宇宙関連技術やNGN(次世代ネットワーク)に関連する取り組みを披露した。

 2007年9月14日に打ち上げられた月周回衛星かぐやは,重量が3トン,縦2.1m×横2.1m×高さ4.8mという世界最大級の無人月観測衛星である。部品点数は12万5000点で,開発には11年を要した。このかぐやの開発に,NECはプライム・コントラクタとして関わり,開発の取りまとめや主要部品の開発・製造を担当した。

 講演の中で藤江副社長は,トランスポンダのモックアップ(模型)や,精地球センサーの実機を披露(写真1)。過酷な宇宙空間での使用に耐える信頼性だけでなく,軽量化を実現するために,開発に非常な困難を要したことを強調した。また藤江副社長は,将来の監視衛星に搭載される「シリコン・カーボン・ミラー」(写真2)を初公開した。シリコン・カーボン・ミラーは,従来のレンズに比べて圧倒的に軽量であることが特徴で,実用化が迫っていると語る。

 藤江氏は,「月観測衛星は,日本や米国だけでなく,中国やインドも手がけている。月に関しては,まだまだわかっていないことが多い。日本の『かぐや』による観測によって,今までとは違う月に関する事実が,教科書に載るかもしれない」と,かぐやに期待を寄せる。

 藤江氏が,IT部門の担当者が集まる「C&Cユーザーフォーラム」でかぐやに触れたのは,「日本企業がITを使って産業競争力を高めていくためには,これまで思いもしなかったような方法でITを活用していく必要がある」(藤江副社長)ことを訴えたかったから。

 例えば現在,農業の生産性を上げるための取り組みとして,観測衛星を活用する手法が研究されているという。「観測衛星で宇宙から水田を観測して,米の中のたんぱく質含有率を識別し,最適な時期に刈り取りを行う技術が研究されている。米は,たんぱく質の含有率が低いほうがおいしい。センサーを積んだ衛星が打ちあがれば,刈り取りに最適な時期が分析可能であり,地上から天気を見て推測するのとはまったく異なる農業ができるようになる」と語る。

 衛星技術に加えて藤江氏は,「企業は,NGNに着目してほしい」と呼びかける。「NGNは,従来のインターネットに大容量,高品質,高信頼をもたらす技術だが,NECではNGNのことを,単なる技術インフラだとは捉えていない。新しいネットワークの上で展開されるサービスやアプリケーション,企業や個人が使用する新しいシステムを含めたすべてが,NGNだと考えている。NGNの本質は,これまで思いもよらなかった異業種とのコラボレーションが実現することだ。NECとしても宇宙開発のようなロマンや夢を持って,NGN事業を推進していきたい」と訴えた。