写真1:Windows VistaとLinuxのハイブリッド・ホーム・サーバー
写真1:Windows VistaとLinuxのハイブリッド・ホーム・サーバー
[画像のクリックで拡大表示]
写真2:パソコン型のシン・クライアント。重量は約650g。
写真2:パソコン型のシン・クライアント。重量は約650g。
[画像のクリックで拡大表示]
写真3:PDA型のシン・クライアント。重量は約250g。
写真3:PDA型のシン・クライアント。重量は約250g。
[画像のクリックで拡大表示]

 NECとNECパーソナルプロダクツは12月4日,Windows VistaとLinuxを搭載するホーム・サーバーと,ホーム・サーバーの画面をネットワーク経由で利用するリモート端末などを発表した。これらの製品群は「Lui」という新ブランドで,2008年前半に商品化する。NECはLuiのデモ機を,12月5日から東京ビッグサイトで開催するプライベート・ショー「iEXPO 2007」で一般公開する。

 Luiは,ホーム・ネットワークの中核となる「ホーム・サーバーPC(写真1)」と,ホーム・サーバーPCのWindows画面を遠隔利用するリモート端末「PCリモーター・ノート・タイプ(写真2)」「同ポケット・タイプ(写真3)」で構成される。ホーム・ユーザー向けに特化したシン・クライアント・ソリューションである。ホーム・サーバーのリモート操作には,同社の独自技術である「リモート・スクリーン・テクノロジ」を採用する。

 リモート・スクリーン・テクノロジは,専用のハードウエアによってWindows画面の遠隔操作を実現する技術である。Windows XP/Vistaにも「リモート・デスクトップ」というソフトウエア・ベースの画面操作機能が搭載されているが,「リモート・デスクトップのプロトコルであるRDPは,狭いネットワーク帯域での操作を目指したものであり,消費者が重視する動画再生や,ゲームなどに使われるDirectXの利用,Webで使われるFlashなどには適していない」(NECパーソナルプロダクツ商品企画部長の西浦充氏)。それに対してNECのリモート・スクリーン・テクノロジは専用のハードウエアを使用しているため,「動画やアプリケーションに依存せずに,パソコンの画面に表示されるすべての情報をリモート端末に転送できる。また,端末のプロセッサ使用率やメモリー使用量も低く抑えられる」(西浦氏)という。

 同社によれば,「リモート・スクリーン・テクノロジ」を使うと,HD(ハイビジョン)動画を再生しているWindows画面を,10Mビット/秒強の転送速度で送信できるという。また,通常のアプリケーション画面であれば,1Mビット/秒程度で送信できるとしている。

 ただし,専用ハードウエアを使用しているため,ホーム・サーバーPCのWindows画面を遠隔操作できるのは専用の「PCリモーター」だけになる。「普通のパソコンをリモート・スクリーン・テクノロジのクライアントにするソフトウエアもすでに開発しているが,製品化は未定だ」(西浦氏)としている。

 NECパーソナルプロダクツの高須英世社長は,「Luiでは,ホーム・サーバーPCの画面を,PCリモーターを使ってネットワーク経由で利用するだけだ。そのため,外出先であっても,自宅PCと同じ使い勝手を実現できるし,データを持ち出す必要もないので,セキュリティも高い」と訴える。

Windows Linuxハイブリッド・サーバー

 ホーム・サーバーPCは,1台のきょう体にWindows Vistaパソコンと,Linuxベースのハードディスク・レコーダーが同居するというハイブリッド型のサーバーだ。マザーボードやハードディスクも,Windows Vista用,Linux用を個別に搭載する。ハードディスク・レコーダーは2台のデジタル・テレビ・チューナーを搭載し,2番組同時録画だけでなく,録画したテレビ番組のネットワーク配信機能も備える。ハードディスク・レコーダーで録画したテレビ番組はWindows Vistaパソコンでも視聴できる。

 PCリモーターは,まさにシン・クライアントそのもの。搭載するOSなどは公表していない。「PCリモーター・ノート・タイプ」は,ノートPC型のモデルで,ノートPC用のキーボードや10.6型液晶ディスプレイ(WXGA,1280×768ピクセル),有線/無線LANなどを搭載する。大きさはB5ファイル・サイズで,最薄部は16mm,重量は約650gである。

 「PCリモーター・ポケットタイプ」は,PDAのようなモデルで,タッチパネル付きの液晶ディスプレイ(4.1型,WXGA)や,キーボード,無線LANなどを搭載する。重量は約250g。

 製品価格についてNECパーソナルプロダクツの高須社長は「サーバーとクライアントのセットで,現在販売されているハイエンド・パソコンよりも高いぐらいの価格帯になるだろう」と語る。高須社長によれば,ハイエンド・パソコンとは30型超の液晶モニターが付属するモデルとのことであり,Luiの価格は30万円台後半以上になるのは確実だ。

ネックとなるのは「デジタル・テレビ放送のネットワーク転送」

 NECでは2008年前半中にLuiを正式発売する考えだが,製品化する上では「デジタル・テレビのネットワーク転送」が大きな問題になりそうだ。NECとしては,ホーム・サーバーで録画したデジタル・テレビ放送も,同社の「リモート・スクリーン・テクノロジ」を使って,ネットワーク経由でPCリモーターに表示させたい考えだ。しかし,現在のデジタル・テレビ放送では,録画した番組をホーム・ネットワーク内で転送できるのは,「DTCP-IP」という技術を使った場合に限られる。「リモート・スクリーン・テクノロジ」のような画面キャプチャ技術をベースにした技術では,デジタル・テレビ放送の録画データをネットワーク転送できない。

 Luiでも,DTCP-IPを使うことで,録画したテレビ番組をネットワーク転送できるようにする予定だ。ただし,DTCP-IPが利用できるのはホーム・ネットワークに限定され,宅外のネットワークに存在するクライアントには転送できない。「自宅のPCでできることすべてを,宅外でも使えるようにする」というLuiのコンセプトには合致しない。

 また,DTCP-IPでハイビジョンを転送するためには,約25Mbps程度の転送速度が必要であり,「リモート・スクリーン・テクノロジ」を使うよりもネットワークへの負荷が重くなる。無線LANの実行速度を考えると,有線LANでなければハイビジョンのネットワーク転送は難しいだろう。

 NECパーソナルプロダクツでは,「リモート・スクリーン・テクノロジで,録画したデジタル・テレビ放送が送信できるように,努力していきたい」(同社ユビキタス事業開発本部の松井裕也商品企画部)としている。