経済ジャーナリストの財部誠一氏
経済ジャーナリストの財部誠一氏
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 「日本の景気は絶好調であり,地球規模でも人類史上いまだ経験したことのない火を噴く好景気を謳歌している。中小企業も大企業も,世界全体でグローバルにビジネスを考えられる者だけがボロ儲けができる。今後ますます格差は広がる。ITで何ができるのかを常に考えよ。今こそビッグ・チャンスなのだ」---。

 11月30日,経済事情に詳しいジャーナリストの財部誠一氏が「Symposium/ITxpo 2007」で講演。景気の回復に気付いていない多くの日本人に,ITビジネスに追い風が吹いていることを説いた。

 財部誠一氏は冒頭で,日本人が経済の不安材料として過大に捉えている例としてサブプライム・ローン問題を紹介し,たいした問題ではないと切り捨てた。まず,サブプライム・ローンは,そもそもが酷い劣悪な金融商品だったという。さらに,損失規模も,たいしたことがないという。財部氏は,物事を悪くネガティブに捉え将来に悲観しがちな日本人独特の習性に警笛を鳴らす。

 以下に財部氏の講演内容をまとめた。


 サブプライム・ローン問題では,まずは資金繰りの問題が発生した。どんなに良い企業でも金が入ってこなくなれば潰れるという問題だ。このフェーズはすでに終了し,現在ではバランス・シートの問題に入っている。貸した金が不良債権化して戻ってこないという問題だ。不動産全体の価格が下落することで,不動産を売って借金を返そうと思っても売れない状況になっている。現在の米国は,昔の日本と同じ状況だ。

 ただし,米国におけるサブプライム・ローン問題は,実はたいしたことがない。不良債権の金額は4500億ドル(50兆円)くらいになると言われているが,米国と比較して経済規模が2分の1しかない日本でさえ,かつては130兆円の不良債権をかかえた。日本の2倍の経済規模を持つ米国にとっての50兆円など,本当にたいしたことではない。

 日本人の悪いところは,何か大きな経済的ショックが起こると,連鎖反応的に物事をネガティブに決め付けて考えること。「風が吹いたら桶屋が儲かる」という発想で,なおかつ発想の仕方がネガティブだ。こうして,日本人の頭の中では,「サププライム・ローン問題=世界の終わり(終焉)」という思い込みが出来上がってしまう。まったくもって,ばかばかしい。日本以外の国では,何か問題が起こっても,自分の頭で考えて,自分の力で解決する。

 言っておきたいが,世界は今,超好景気だ。日本人が知らないだけであり,人類史上,これまで経験したことがない好景気だ。世界全体で,この5年間の経済成長率は4%を超えている。だから,米国が少々失速しようが,どうってことはない。日本人は,このことが分かっていない。米国は現在,戦略としてドル安へと誘導している。ドル安にして諸外国に不良債権を売り払いたいのだ。米Citibank銀行が中東から融資を受けるなどという,極めて大きなニュースが起こっている。

 このように世界は,国家と国家が戦略と戦略をぶつけ合って勝った負けたの争いをしているが,世界全体をトータルで見れば,個々の問題を大袈裟にネガティブに考えるのはナンセンスだ。日本人は,まずこのことを自覚すべきだ。

 はっきり言っておく。日本の景気はパーフェクトに回復している。これ以上の回復は,あり得ない。ちなみに,人口がマイナス成長になろうとしている国は,普通に考えたら景気は悪化する。人口を増やすために移民政策もとる。だが日本は移民政策をとっていない。日本人が人口について議論するケースと言えば年金問題くらいだが,これもナンセンスだ。もっと経済のために人口を考えるべきだ。

 よく格差社会の問題を引き合いに出して景気を語る人がいるが,格差などという情緒的な問題で語るのではなく,もっと客観的なGDP(国内総生産)の数値で見なければならない。2006年には,(1965年から1970年の5年間の長期にわたって続いた好景気である)いざなぎ景気を(期間の長さにおいて)抜いた。ニュース・キャスターがニュース番組で,いざなぎ景気と今回との経済成長率が全然違う点を指摘して「ちゃんちゃらおかしい」という風なコメントをしていたが,私に言わせれば,ちゃんちゃらおかしいのはそっちであると言ってあげないといけない。

 いざなぎ景気を持ち上げる人達は,10%を超える経済成長率を論拠としているが,経済成長率の数値にどれほどの意味があると言うのか。まさか今後の日本が10%の成長ができると思っているのか。当時の日本のGDPはたったの100兆円でしかない。これに対して現在の日本のGDPは500兆円である。この数値は,ドイツ,フランス,イギリスの3つを足さないと超えない。そのくらい巨大な経済大国が,2%を超える経済成長を5年続けてきたのだ。

 実態も凄い。日経平均株価は5年前の2002年と比べて2倍になっている。日経平均が2倍になると,個別の株価は5倍から10倍になる。この5年間というのは,「文句言ってんじゃなくて,株買っとけよ」と,こういう話なのだ。何十年に一回の,ビッグ・チャンスだったのだ。しかも,何の工夫もいらない。メガバンクの不良債権問題が終わった時に,メガバンクの株を買って,あとは放っておくだけで,ボロ儲けができたのだ。

 景気回復の最大の要因の1つは,海外で儲けている会社が増えたこと。ビジネスの前提は地球におくべきであり,日本を軸に考えていてはダメだ。単に輸出で儲けるとか生産拠点を海外に置くとか,そういう話ではなく,地球規模でトータルにビジネスを考えるべきということだ。

 1980年代,米国と日本の貿易摩擦の関係で,トヨタ自動車などの自動車産業はやむなく米国国内で自動車を生産することになった。ところが,米国で自動車を生産したらボロ儲けできることに,トヨタは気付いてしまった。そもそも,豊田市で生産して米国に持っていって売っていたら,カローラを1台売るのにも何万円のコストが余計にかかるんだよ,という話だ。米国で作ったらもの凄く儲かるのだ。トヨタ自動車の売り上げはこの10年で2倍に過ぎないが,利益は5倍に増えている。

 大企業だけの話ではなく,中小企業も同じだ。国家を超えて需要を見出し,オン・デマンドで部品を供給するといったサプライ・チェーンの体制を整え,物流ルートの最適化などを常時図る。こうしたビジネス・モデルの変革にはITが欠かせない。日本ではITと言えば事務の効率化とネット利用くらいしか実になっていないが,実にばかげている。

 よく「環境変化に耐えられない種は滅びる」という進化論が語られるが,そんなことは当たり前であり,そこには何のメッセージ性もない。真に伝えなければならないのは,環境の変化に気付くことが難しい,ということなのだ。日本では社長が無能であるケースが多いので,会社に対して正しい提案をしていかなければならない。「ITで何ができるか」を考え,伝えなければならないのだ。(談)