「ソフトウエア開発プロジェクトのデータは,量だけでなく品質が重要。3年間で質の高いデータを1700件収集できたというのは,かなりいい線ではないか。世界的に見ても質・量ともに引けを取らないプロジェクト・データベースを構築できたと自負している」。情報処理推進機構(IPA)ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)の鶴保征城所長は11月20日,SEC設立3周年に関する記者発表会でこう語った。

 SECは,産学官によるソフトウエア・エンジニアリングの研究・普及により,日本のソフトウエア分野での競争力向上を目指している組織。実際のプロジェクトから得たデータを収集・分析する「エンピリカル・ソフトウエア・エンジニアリング」と呼ぶ工学的手法を重視している。2004年10月に設立してほぼ3年が経過し,「ひと区切りかなと感じている」(鶴保所長)。

 エンピリカル・ソフトウエア・エンジニアリングを実践するには,質が高く,しかも分析できるほどの量のソフトウエア開発プロジェクト・データを収集することが不可欠。このため,SECは設立当初から実際のプロジェクト・データ収集と分析に注力してきた。その結果,2007年の時点で,20社から1774件のデータを収集した。「2005年の時点でも1000件のデータを収集したが,品質が低かった。その後,必要なデータ項目を定義して,欠損値がない形で改めて収集した」(鶴保所長)。オーストラリアに同様のプロジェクト・データベース構築プロジェクトがあるが,「20年近くで4000件程度」(同)。それに比べると,3年で1700件というのは上々ではないかということだ。

 SECは,ソフトウエア開発プロジェクト・データを収集・分析した結果を毎年「ソフトウェア開発データ白書」としてまとめるとともに,成果を生かしたプロジェクト診断ツールを開発中で,2008年1月に公開する予定だ。このツールにプロジェクトの規模や工数,業種,言語,アーキテクチャ(システム構成),バグ数といったデータを入力すると,生産性の水準や工期,品質の水準などが適正かどうかを診断するためのさまざまな指標を参照できる。さらにプロジェクト・データを自動収集・可視化するためのツールも今年4月からベータ版を提供している。

 問題は,プロジェクト・データを提供しているのが,まだ20社にすぎない点。エンピリカル・ソフトウエア・エンジニアリングの成果を,日本のソフトウエア産業の競争力強化に生かす試みも,まだ始まったばかりだ。3年の活動を経てそれなりに成果は出ているものの,「まだ取り組みは始まったばかり」と鶴保所長は語る。

 SECは,エンピリカル・ソフトウエア・エンジニアリングに関する成果や共通フレーム2007,さらに組み込み分野における成果について,11月28日にウェスティンホテル東京で開催される「SEC設立三周年成果報告会~Software Engineering Best Practice Day~」で発表する予定だ。