写真●米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO
写真●米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO
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 「挑発的な意見になるかもしれないが,10年後に,自社で独自に管理するサーバーで,データを保持したり,トランザクションを実行したりする企業は無くなるだろう。ほとんどのトランザクションやアプリケーション,システム管理機能が,インターネット上のコンピュータ・クラウドからもたらされるはずだ」--。米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは11月8日,都内で開催した「Microsoft Partner Conference」でこう断言した。

 バルマーCEOの見解自体は,珍しいものではない。多くのベンダーが,ユーティリティ・コンピューティングやクラウド・コンピューティングのビジョンを示しているし,Microsoftも「ソフトウエア+サービス」というスローガンの下,ソフトウエアのパッケージ販売からサービスの提供に軸足を移しつつある。しかし,今現在,ユーザー企業に対してサーバー・ハードウエアやパッケージ・ソフトウエアを販売しているシステム・インテグレータが一堂に会する「Partner Conference」の基調講演で,バルマーCEOがこのように発言する意義は大きい。

 バルマーCEOは,ソフトウエア+サービスの世界では,企業情報システムの姿も大きく変わると語る。「社員に,パソコンと携帯デバイスを与えて,どこをクリックすれば良いか指示するだけで,すべてのアプリケーションが配信される時代が来る。システム管理部門は,アプリケーション配備に関与する必要はない。独自のアプリケーションを構築したり,セキュリティを管理したりする必要はなくなる。すべてがブラウザ・アプリケーションになるのではない。リッチ・クライアントやスマートフォンも使われる。業務アプリケーションはすべて,適切な人に対して,適切なセキュリティ基準に従って,インターネット・クラウドから提供されるようになる」(バルマーCEO)と語る。

 またバルマーCEOは,ソフトウエア+サービスは「ホスティングとは異なる」とも語る。「ホスティングは,企業が独自のシステム環境やアプリケーション環境を構築して,それを他人のデータセンターに預けるというものだ。アーキテクチャを再構築しただけに過ぎない。カスタム・アプリケーションをユーザーが独自に構築するのではなく,共通のシステムを世界中の様々なユーザーが使用する時代に変わっていくだろうし,私はそうなると信じている。これは,Microsoftの好みや趣味によって変わるという問題ではない」(バルマーCEO)。

「私やあなた方のビジネスが変わる」

 ITに関連するビジネスの姿も,大きく変わる。バルマーCEOは「コンピュータ・クラウドの時代が到来することで,私やあなた方のビジネスが変わるだろう」と語る。「サーバーの導入や展開にまつわるビジネスは変わっていくだろう。ゆっくりではあるが,ビジネス構造は間違いなく変化する。もちろん,今年も来年も再来年も,私たちとしてはパートナーの皆さんに,サーバーやソフトウエアを販売して頂きたいが,私たちは皆さんと一緒に変化したい」(バルマーCEO)。

 バルマーCEOはビジネスを変えることの重要性をこう訴える。「15年前,大きなビジネスがパートナー向けに存在した。それは,TCP/IPプロトコル・スタックをWindowsに実装するというビジネスだ。WindowsがTCP/IPスタックを内蔵することによって,このパートナー・ビジネスが無くなってしまった。パートナーのビジネスを奪ったと言えるし,パートナーにとっては良くなかっただろう。しかし15年が経って,(WindowsのTCP/IPスタック内蔵が)1つのビジネス機会を奪った一方で,新しいビジネス機会を開拓したことに気づくはずだ。ソフトウエア・サービスに関わる変化が,新しいビジネス機会をもたらすということを理解して頂きたい」(バルマーCEO)。

Microsoftは「破壊的」な変化も起こす

 バルマーCEOはこうも語る。「マイクロソフトには2つの側面がある。1つは,ソフトウエア製品のベンダーという側面であり,このビジネスで大きなお金を得て,お客を満足させてきた。もう1つは,破壊的(Disruptive)な変化をもたらすかもしれないが,オンライン・カンパニーであるという側面だ。オンライン・カンパニーとして,新しい技術や新しい時代を生み出したい」。

 それでは,パートナーには今後,どのようなビジネス機会があり,どのようなビジネスが「奪われる」ことになるのだろうか。バルマーCEOは「CRMの販売やカスタマイズ,サービスの再販などがあるだろう」と説明する。その一方で,保守運用に関連するビジネスが減少していくと指摘する。バルマーCEOは,「現在,IT予算のうちの70%が,既存システムの保守運用に費やされている。これは変化するだろう。現在,Exchange Serverを自社で運用しているユーザー企業も,10年後にはExchange ServerやActive Directoryの構築・運用を,クラウド・コンピューティングに移行させているはずだ。こういった作業への需要は無くなるが,パートナーのビジネスが無くなる訳ではない。ワークフローを作ったり,他の業務アプリケーションと接続したりするビジネスが生まれるはずだ。パートナー企業の時間の使い方が変わって,新しい仕事にシフトするだろう」と語り,パートナーであるシステム・インテグレータに対しても「変身」を訴えかけた。

■変更履歴
下から2段落目に、「破壊的(Destructive)」とありましたが,正しくは「破壊的(Disruptive)」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2013/02/20 17:50]