日本マクドナルドホールディングス代表取締役会長兼社長兼CEO 原田泳幸氏
日本マクドナルドホールディングス代表取締役会長兼社長兼CEO 原田泳幸氏

 「スピード、予見力、投資効果、競合力の4つを向上させられるのがネットマーケティングの持つ力だ---」。

 日本マクドナルドホールディングス代表取締役会長兼社長兼CEOの原田泳幸氏は東京ミッドタウンで開催中の「NET Marketing Forum Fall 2007」において「マクドナルドのe-Business Model」と題した基調講演を行った。

 講演の中で原田氏は同社のマーケティングを「マスマーケティング」「店舗ごとのマーケティング」「e-Marketing」の3つに分類。マスマーケティングは準備期間が長く、効果の反応は早い、カバーエリアも広いと定義。一方、店舗ごとのマーケティングは準備期間はやや長く、効果の反応は遅く、カバーエリアは狭いとした。

 同社が現在、力を注いでいるe-Marketingは、「準備期間が短く、効果の反応もリアルタイム。カバーエリアは柔軟で場所や時間などスケーラブルに展開できる点がメリット」とした。

 最も分かりやすい例がクーポンだ。同社では新聞に折り込む形でクーポンを配布しているが、1回で3000万枚配布するという。当然、売り上げを予測して配布するため数カ月前から準備が必要となり、実施できるのは年間10回程度で、「企画から実行、検証まで数回しかできない」。しかも、「ディスカウントしなくていい商品、ディスカウントしなくていい方にまで配布」しているのが現状だ。

 こうした背景を踏まえ、ネットマーケティングの活用について「渋谷のセンター街でクーポンを配るとすぐに若者が来る。こうしたことも売り上げに応じてすぐに展開可能になるし、雨が降ったらすぐにクーポンを配布するといったことも可能になる」と可能性について触れた。日本マクドナルドはNTTドコモと共同でプロモーションを企画、運営する株式会社The JVを2007年7月31日に設立している。

 このほか、原田氏は現在取り組んでいる案件についても触れた。

 「顧客対応時間を30秒縮めると売り上げが5%向上する。全国で1秒間縮めるだけで売り上げが8億円変わる」と、原田氏はスピード向上の大切さについて言及。店舗内ではオーダーを受けてからサービスを提供するまでの時間が一番かかるといい、ドライブスルーの利用などにおいて事前に店舗外からケータイで注文できるサービスの展開を来年実行する考えだという。

 さらにハッピーセット(子供向け玩具付きのメニュー)についても改善の余地があると指摘。現在、ハッピーセットは年間に1億数千万売れているといい、様々な企業と提携して何カ月も前から玩具を作成し、商品として提供している。原田氏はこれを「旧態依然のサプライチェーン」と表現。仮に玩具のバーチャル化を実現できたら、機会損失もなくなるし、在庫リスクもなくなるとした。

 続いて、顧客の店舗滞在時間、来店動機の創出についても言及。同社の2640店舗には既にブロードバンド回線が導入されており、公衆無線LAN サービスを利用できる。現在進めている実験はこの回線を使ってテレビ電話を無料でできるようにするというもの。「携帯電話のテレビ電話を使わない人でも、孫の顔が無料で見られるとなると毎日でも通う人も出てくるだろう」(原田氏)。

 原田氏は最後に今年導入した地域別価格導入について触れた。「人件費も違う、家賃も違う。東京と地方で同一価格は当然破綻をきたすし、競争モデルとしてもアンフェアだ」と主張。この地域別価格についても、過去5年以上にわたるレシート分析を1年かけてやって算出したことを明らかにした。その上で「こうした施策も、ネットマーケティングであれば1年もかけずリアルタイムでできる」とした。

 原田氏は2004年、アップルコンピュータ日本法人の社長から日本マクドナルドの社長に就任。自身、講演の中で「外食産業のなかでパソコンメーカー出身者は私だけなのでe-businessで他社に差を付けていきたい」と語るなど、異色の存在だ。就任当時、価格改定を繰り返し業績が低迷していた日本マクドナルドを立て直し、現在では売り上げを1000億円以上回復させるなど、経営手腕を振るっている。

 日本マクドナルドの好調な業績について、「予想以上の絶好調は危険だと感じている」と触れた。「事業計画が100に対し150の実績だと喜び、100に対して50だと落ち込む。そのため、事業計画はどうしてもコンサバティブ(保守的)になる」。

 同社では30分ごとの売り上げを予測し、クルーを投入するシステムになっているという。この売り上げの予測を下回るとクルーが過剰になりサービスが過剰になるし、予測を上回るとクルーが不足し、行列ができたり商品の入れ間違いが発生したりしてサービス品質が落ちる。

 売り上げを見ると前者は売り上げを落とすものの、サービス品質の向上で翌月は売り上げが向上し、後者はその逆になる。こうした例を挙げ、原田氏は「ビジネスの本質を見つめないと正しい経営はできない」と指摘した。

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