日立の中村豊明専務。「パソコン関連の従業員を薄型テレビに移したばかりなので具体的な商品はまだだが、いずれパソコンのノウハウを盛り込んだ薄型テレビを見てもらえるだろう」
日立の中村豊明専務。「パソコン関連の従業員を薄型テレビに移したばかりなので具体的な商品はまだだが、いずれパソコンのノウハウを盛り込んだ薄型テレビを見てもらえるだろう」
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 日立製作所は2007年10月31日、家庭用パソコン「Prius」から事実上撤退することを正式に認めた。同日開催された中間決算説明会で同社 執行役専務の中村豊明氏が明らかにした。

 家庭用パソコン事業は薄型テレビや携帯電話などとともに、デジタルメディア・民生機器部門の主力商品の1つとしていた。同部門は北米における50型以上の大型プラズマテレビの販売不振などが響き、連結中間期の営業損益ベースで508億円と巨額の赤字を計上した。同部門のテコ入れ策を説明する中で中村氏は、DVDレコーダーや背面投射型(リアプロ)テレビとともに、家庭用パソコンについて事業を抜本的に見直すことを表明。「従来型の家庭向けパソコンから、人員を放送・通信融合型商品へ移行していく」と語った。

 事業再編は、既に着手済みである。同社は夏商戦向けモデルを発売した2007年5月ころから、家庭用パソコンの商品企画などに携わる従業員の配置転換を進めてきた。転属先は携帯電話やAV機器など多岐にわたるが、主に薄型テレビに関連する部署が多いと言う。同社は厚さ35mmと超薄型の液晶テレビ「Wooo UTシリーズ」を2007年の年末商戦に投入する予定で、薄型テレビ市場における差異化に全力を注いでいる。「パソコンがなくなったとしても、家庭において多様な情報を映し出す端末機器がなくなることは考えられない。可能性はさまざまだと思うが、最も有力なのはやはりテレビだろう。となれば日立の戦略としては、パソコンで培ったノウハウを薄型テレビに盛り込んでいくのが最も合理的だと考えた」(中村専務)。

 製造拠点は、小幅な軌道修正で済みそうだ。家庭用パソコンの製造拠点は豊川工場(愛知県豊川市)だが、同所では日立オムロンターミナルソリューションズの現金自動預け払い機(ATM)の製造なども手掛けており、人員はこちらに振り向ける。「製造といっても、パソコンに関しては単純な組み立て工程が主体」(中村専務)で、設備・生産技術ともに転換はさほど難しくないとしている。低価格の製品は豊川工場ではなく、台湾メーカーとのODM(相手先ブランドによる設計・生産)契約により調達しており、撤退に伴う影響は小さいとしている。

 「FLORA」ブランドで提供している法人向けパソコンは、これまで通り、米ヒューレット・パッカードからのOEM(相手先ブランドによる生産)調達でまかなう。HDDを内蔵せずサーバーに常時接続して使うシンクライアント関連の製品は、引き続き自社開発・生産していく方針。これらの製品を含む情報通信システム部門について、同社は11月19日に説明会を開いて、今後の事業方針を説明する予定としている。