米国にあるSAP LabsでSAP ERP開発部門のシニア・バイスプレジデントを務めるトビアス・ドッシュ氏
米国にあるSAP LabsでSAP ERP開発部門のシニア・バイスプレジデントを務めるトビアス・ドッシュ氏
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 「当社のERP(統合基幹業務システム)パッケージのメジャー・バージョンアップは数年に1回あり、顧客企業にとって苦痛な作業になっていた」。米国にあるSAP LabsでSAP ERP開発部門のシニア・バイスプレジデントを務めるトビアス・ドッシュ氏(写真)は、ERPパッケージのバージョンアップが「導入企業に負担を強いていた」と認める。その上で、「だからこそ現行のSAP ERP 6.0をメジャー・バージョンアップしないことを決めた」と、昨年10月に発表した新戦略の経緯を説明する。

 ドッシュ氏は、「ERPパッケージを導入した顧客にとって、バージョンアップ作業は決して簡単なものではない。基幹系システムである以上、業務に影響を与えないようにダウンタイムを考慮し、週末のうちにすばやく作業をしなければならない。そうした顧客企業の声を聞いた結果、ERPパッケージに求めるのは、安定性と新しいビジネスをサポートする機能の追加だと分かった」と語る。

 この2つを両立するために独SAPは06年10月、「メジャー・バージョンアップを止めた」と発表。バージョンアップの代わりに、「エンハンスメント・パック」と呼ぶ機能拡張用のソフトウエアを年に数回提供することを公表した。このポリシーは08年中に、ERPパッケージだけでなく、CRM(顧客情報管理)ソフトやSCM(サプライチェーン管理)ソフトなど、アプリケーション群「SAP Business Suite」全体について適用する。

 エンハンスメント・パックにより「当社製品の利用企業は、ネット・ショッピングの感覚で新機能を追加できるようになる」と独SAPのヘニング・カガーマンCEO(最高経営責任者)は説明する。同パックはWeb経由でダウンロードして既存のシステムに追加できるからだ。SAPPHIRE 07 Miyazaki SEAGAIAでは実際に、10分弱で機能追加が可能なデモを披露した。

 カガーマンCEOによれば、「エンハンスメント・パックはERPパッケージの機能自体を補強するのではなく、業種別の機能を多く提供していく」。それを用いると、「これまで複数のアプリケーションを立ち上げて実施しなければならなかった作業が1画面で済むようになる」(カガーマンCEO)という。

 ただし、エンハンスメント・パックを利用するためにはERPパッケージの最新版である「SAP ERP 6.0」にバージョンアップする必要がある。日本のSAP導入企業は前版である「R/3 4.6C」や「R/3 Enterprise」を利用しているケースがまだまだ多い。こうした状況に対しドッシュ氏は、「確かに日本では、SAP ERP 6.0の採用が遅れている。だが今後の日本企業の採用意向は強いと聞いており、心配はしていない」とした。

■変更履歴
記事掲載当初「2013年までSAP ERP 6.0をバージョンアップしない」としていましたが、実際は時期を切らずにバージョンアップしない方針です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2007/11/01 18:45]