日本郵政グループの「日本郵便」が提供する法人向け郵便サービス「後納郵便」の10月分料金集計の一部が、月内に終わらない可能性があることが、日経コンピュータの取材で分かった。支払期限の11月20日までに、10月分の請求ができない恐れが生じている。民営・分社化に伴い10月に稼働させた新システム自体は順調に稼働しているが、現場の社員のITリテラシに問題があるとみられる。

 後納郵便は、1カ月分の利用料金を集計し、翌月に一括して請求する。郵便事業会社の現場社員が郵便システムに郵便物の受け付けデータを入力すると、料金の集計や請求書の発行、財務会計システムへのデータ送信といった後続処理につながる。

 一連の処理のきっかけとなる現場社員のデータ入力は、「金銭にかかわる処理のため、正社員しか操作できない」(関係者)。新システムの要件定義の段階で、現場部門の要請に基づき、そのような仕様としたようだ。だが、実際の業務は「社員以外のパート社員がこなしているケースが大半」(同)。日経コンピュータの調べでは、IT部門はパート社員でも操作できるようにすべきではないかと現場部門に提案したが、通らなかったという。

 実際にシステムを使い始めてみると、「システムの操作に慣れていなかったり、他の仕事に追われるなど、データ入力が滞る状態になった」(同)。郵政グループは民営・分社化に伴い、24万人の職員に7万人月の研修を設けたが、それでも完璧とはいえなかった。

グループ社員24万人のITリテラシ向上が不可欠

 IT部門は、このような事態を想定して、パート社員でもデータ入力ができるようにアクセス権限を変更できる機能を、支社長など責任者向けに設けておいた。だが、支社長などが、この設定変更に慣れておらず、「せっかく作った機能が台無しになっている状態」(同)という。

 10月に受け付けた後納郵便の請求が始まるのは11月以降。このため、トラブルはまだ表面化していないもよう。システムは問題なく動いているため、データ入力のペースを上げれば、請求が遅れる事態は免れる可能性も残っている。日本郵便は、パート社員でも入力操作ができるように設定を変更するなどして、データ入力作業を急いでいるとみられる。

 9月までの旧システムでは、後納郵便については「委託先別に請求書を発行するなどの簡易的なシステムしかなく、社員以外でも操作できた」(同)。現場が入力したデータを基に請求書の発行や財務会計処理まで連携させる本格的なシステムは未整備だった。

 今回の問題の根本的な原因は、現場部門が新システムの要件分析を適切にできなかったことと、システムの操作に不慣れという2つの点にある。いずれも、突き詰めると社員のITリテラシが低いという結論に行き着く。郵政グループが民間企業として生き残るには、優れた機能を備えるシステムを構築するだけでは不十分。グループ社員24万人のITリテラシを早急に向上させなければならない。

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