総務省総合通信基盤局の谷脇康彦電気通信事業部事業政策課長(左),慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構の岸博幸准教授(中央),メリルリンチ日本証券調査部の合田泰政マネージング ディレクター シニアアナリスト(右)の3人がNGNについて討論
総務省総合通信基盤局の谷脇康彦電気通信事業部事業政策課長(左),慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構の岸博幸准教授(中央),メリルリンチ日本証券調査部の合田泰政マネージング ディレクター シニアアナリスト(右)の3人がNGNについて討論
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 「どうなる?日本のNGNの行方」--。人気討論番組である「朝まで生テレビ」を彷彿とさせるようなタイトルのパネル・ディスカッションが10月4日,都内で開催された。NGN(次世代ネットワーク)の最新動向を解説する専門セミナー「NGN Summit」におけるひとコマだ。

 登壇したのは,総務省総合通信基盤局の谷脇康彦電気通信事業部事業政策課長,エイベックス・グループ・ホールディングス取締役も務める慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構の岸博幸准教授,メリルリンチ日本証券調査部の合田泰政マネージング ディレクター シニアアナリストの3人である(写真)。

 パネル・ディスカッションは,(1)NGNについてこう考える,(2)NGNで日本の通信業界はどう変わるか,(3)NGNが抱える不安と散見させる課題--の3テーマに沿って進行した。NGNに対する考えでは,まず谷脇課長が「公正競争の確保のため,NTTのNGNはオープン性を高いものにする必要がある。NTT東西地域会社が構築するものなのでドミナントの乱用防止が重要である。また,NGNは段階的に発展していくため,柔軟な接続ルールにしていきたい」と競争政策の視点から今後の見通しを述べた。

 岸准教授は,「NGNは経済活動の基盤として重要であり,日本経済の将来のための壮大な実験になる」と大きな期待を表明。その一方で,「NGNは技術的にはしっかりしているのだろうが,ビジネス・モデルやアプリケーションはしっかり練られているか疑問。残念ながら通信事業者の目線で進んでおり,技術が優れていてもユーザー志向でなければ受け入れられない」との問題意識を明らかにした。

 合田シニアアナリストも岸准教授と同様に,NGNのビジネス・モデルについてコメント。「NGNは,収益力回復やインフラからアプリケーションまでのパッケージ・ビジネスの展開を狙った,通信事業者の反撃のようなもの。だが,NGNはインフラ上のアプリケーションが重要。通信事業者が反撃するほど,『通信事業者主導では無理』ということが白日の下にさらされる可能性がある。NGNの構築は,通信事業者がサービス業へと転換できるかどうか,ビジネス・モデルを変えられるかどうかという岐路になる」とした。

「通信事業者自らがビジネス・モデルを変えるべき」

 2番目のテーマのNGNで通信業界が変わるかどうかでは,NGNのビジネス・モデルの在り方について議論が集中。「通信業界が変わるかどうか」というよりも,「通信事業者がビジネス・モデルを変えられるかどうかが重要」という意見が相次いだ。

 岸准教授は「産業全体に言えることだが,日本の国際競争力は落ちている。NGNを突破口に通信分野で国際競争力を持ち,機器産業を引っ張っていってほしい。そのためには,アプリケーションやコンテンツなどのビジネス・モデルを作れないと厳しい」と指摘。合田シニアアナリストは,「通信会社で働いている方々が,『サービス業』として考えて仕事をしていけるかどうかが重要。電話を提供してきた文化を,サービス業へと転換できないとNGNはうまくいかない」と厳しい意見を述べた。

 これらの意見に受け谷脇課長は,「NGNを使った新しいビジネスを生み出すうえでは,やはり様々な事業者が協調してNGNを使えるオープンな環境が重要だろう」と,政策的な後押しが必要であることを強調した。

 テーマ(3)のNGNに対する不安では,合田シニアアナリストがこれまでの自らの意見を総括したうえで,「NTTのNGNはスペック的にはいいものなるだろう。だが,ユーザーに使ってもらえなければ『その投資回収はどうするのか?』と思う。『何兆円をかけてNGNを作ります』というやり方では先行きが不安だ」とアナリスト的な意見を述べた。

 岸准教授は,NTTの組織や行政の在り方などが,NGNとそぐわない可能性があると指摘。例えばNTTの組織体制については,「距離の概念がないIP技術を使うNGNと,地域と長距離,移動通信に分かれているNTTの現体制は合っていない,NGNを作りにくい体制なのではないか」として,「NTTは2010年を待たず,体制をNGNに合わせて変えていくべきだ」と発言。NTTの組織問題の検討は,政府与党合意で決まった「2010年時点」ではなく,前倒しの議論が必要との認識を示した。

 最後に谷脇課長は,「基本的には,NGNについては楽観的に期待したい」としつつ,「NGNで重要になる認証や課金などのプラットフォーム機能の定義を明確化し,オープン化のための議論の場を総務省が作る」と,今後の取り組みを述べた。