写真1●NTTドコモ代表取締役副社長の山田隆持氏
写真1●NTTドコモ代表取締役副社長の山田隆持氏(撮影:吉田明弘)
 「競争が激化している携帯電話事業で勝ち残るために,ドコモから離れられなくなるようなサービスを提供するしかない」。NTTドコモ代表取締役副社長の山田隆持氏(写真1)は,千葉市の幕張メッセで開催中の「CEATEC JAPAN 2007」の基調講演をこう切り出した。

 まず山田副社長は,携帯電話業界の状況として「世界では30億台を超え,どんどん伸びているところ。その中でも中国とインド,日本をかかえるアジア・大洋州が40%と高い比率を占めている」とワールドワイドの成長基調を説明。次に国内の状況として,「番号ポータビリティなどにより競争は激しくなっている。純増シェアでは“一人負け”などと報道されるが,これを挽回していきたい」と語った。

 山田副社長がドコモの反撃のキーワードとして繰り返していたのが,「ベストサービスの提供」である。個人であれ法人であれ,それぞれのユーザーにとってベストなサービスが提供できれば,ユーザーはドコモから離れられなくなる。それにより解約率を下げて,「新規加入数-解約数」である純増数を大きくしようとの計算だ。「ドコモを愛してもらい,長く使ってもらえるようなベストサービスを提供していくことが基本コンセプト」(山田副社長)。

生活の一部に溶け込むサービスで利便性をアピール

写真2●サービス提供における3つの方向性
写真2●サービス提供における3つの方向性
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 ベストサービスとなりうるサービスとはどのようなものか。山田副社長は,「携帯電話は通話サービスから始まったが,すでにさまざまな使い方をされるようになってきた。今後のベストサービス提供に向けて注力しているのは,(1)定額制,(2)生活アシスト,(3)国際---の3分野」と言う(写真2)。

 定額制サービスはパケット定額サービスの「パケホーダイ」などを提供している。すでに「パケホーダイは1152万契約,契約率は28%に上り,多くのユーザーが定額のパケット料金で各種の情報を取り込むようになっている。今後,パケットの通信速度は高まり,より多様なサービスを提供できるようになる」(山田副社長)。

 携帯電話による生活アシストについて山田副社長は,「ドコモの携帯を持っていると便利と思ってもらえる部分」にその価値があることを強調した。「ケータイのアラームで目覚め,定期券などとして交通機関で利用し,おサイフやクレジットカードにもなり,オフィスや自宅の鍵として使う。こうしたサービスは,ユーザーの要望が非常に多様だが,半面で要望に応じたサービスを提供できれば利便性を直接感じてもらえる。多くの要望を取り込んで,さまざまなサービスを提示していきたい」。

 国際分野では,自分の端末を海外に持ち出して使える「自端末ローミング」の拡大を挙げた。3G+GSMのデュアル端末や国際ローミング対応の3G端末が増えたことから,NTTドコモの国際ローミング利用者のうち自端末でローミングする比率は64.9%に上っていることを報告。ユーザーの要望に応えてサービスを提供してきた結果と説明した。

低コストで高速・高機能なインフラを作る

写真3●ネットワーク高度化のロードマップ
写真3●ネットワーク高度化のロードマップ
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 サービスを支える技術面では,ネットワークの高度化と端末開発について概要を語った。「第4世代(4G)はまだ具体的になっていないが,3.9GのSuper3Gまではきっちりと開発し道筋が見えている。すでに3.5GのHSDPAは人口カバー率で80%を超え,2007年度末までに90%に達する見込み。Super3Gでは下り300Mビット/秒といった高速サービスを3Gの基盤の上で提供できる。投資も2Gから3Gへの転換に比べれば少ない。ユーザーにとっては情報を取り込みやすいサービスを提供できるようになる」(山田副社長)。WiMAXについては,Super3Gと相互に補完しあうサービスになると位置づけを示した(写真3)。

 一方の端末開発では,「共通プラットフォーム化」「ワンチップ化」をキーワードとして挙げた。個々のアプリケーションは端末メーカーが個性を発揮する部分として個別に開発できるようにするが,それを支えるプラットフォームは高機能OSとして共通化することで,開発のコストの低減や期間短縮につなげる。また,これまで2チップ構成だった携帯電話の心臓部を1チップ化して低コスト化と低消費電力化を進める。こうした取り組みにより「すでに端末のコストは下がる傾向にある。今後は高度な機能を取り込んでも“価格が高くならない”携帯電話を提供したい」(山田副社長)という。

法人向けも「ベストサービス」戦略

 講演の最後には,法人向けのサービス戦略の説明もあった。ここでは,「トータルソリューション」と「B2B2Cサービス向けのサービス提供」の2つの側面から,法人ユーザーに向けた“ベストサービス提供”の考え方を披露した。

写真4●B2B2Cサービスに向けたドコモのサービス提供イメージ
写真4●B2B2Cサービスに向けたドコモのサービス提供イメージ
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 トータルソリューションでは,「ケータイは会社が従業員に貸与することが多くなっている。その端末を活用して,効率化や事業の拡大を狙う動きが活発になっている。通話だけでなく情報処理の分野を取り込み,しっかりしたセキュリティを備えたソリューションが求められている。固定系も携帯系も含めて,NTTドコモならば総合的なソリューションを提供できる」(山田副社長)と説明した。

 また,消費者に対してサービスを提供するB2B2Cソリューションについて山田副社長は,「NTTドコモがASP(application service provider)となって,ユーザー企業が欲しいと思うソリューションの選択肢を用意する。例えばクーポンの発行やモバイル会員証などの多くのメニューをNTTドコモがサービスとして用意し,パートナ企業はコンテンツに注力することでバリューチェーンの拡大を目指せる」(写真4)。

 こうした取り組みが一つ一つ結実することで,個人や法人を問わずそれぞれの利用者にとってのベストサービスにつながり,それがNTTドコモを支える。競争を勝ち抜くには“秘策”はなく,地道にユーザー指向のサービスを積み重ね,顧客の満足度を高めることこそが戦略のようだ。