写真1●近藤賞を受賞した関西学院大学の茨木俊秀理工学部情報科学科教授
写真1●近藤賞を受賞した関西学院大学の茨木俊秀理工学部情報科学科教授
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写真2●授賞式での記念撮影 左から、日本OR学会現会長の青木利晴氏(NTTデータ取締役相談役)、OR研究の功績などで02年に文化勲章を受章した近藤次郎博士、受賞者の茨木教授
写真2●授賞式での記念撮影 左から、日本OR学会現会長の青木利晴氏(NTTデータ取締役相談役)、OR研究の功績などで02年に文化勲章を受章した近藤次郎博士、受賞者の茨木教授
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 「オペレーションズ・リサーチ(OR)が“役に立つ学問”であることを世に知らしめたい」--。日本オペレーションズ・リサーチ(OR)学会元会長の今野浩教授(中央大学理工学部)は、同学会設立50周年を記念した「近藤賞」の設立理由をそう語る。9月26日には「第1回近藤賞」の授賞式が開催され、OR関連の分野で400編を超える論文を執筆し、数々の業績を残した関西学院大学の茨木俊秀理工学部情報科学科教授に同賞が授与された(写真1、2)。

 いわゆる最適化問題をコンピュータを使って効率よく解くことを可能にするORは、現在はさまざま分野で実用化されている。自動車メーカーや製鉄メーカーの生産工程の最適化、小売業者のサプライ・チェーンの最適化など、従来は難しすぎて解けないと思われていた問題が解けるようになり、企業の業務効率の向上に役立つようになった。

 ところがORは「長い間、役に立たないと思われていた学問だった」(今野教授)。50~60年代に理論的な研究が急速に進み多くの研究者を引き付けたが、当時のコンピュータでは実用的な問題を解くことができなかったため、その後20年間も沈滞した。急速に注目を浴びるようになったのは、80年代後半から90年代に入ってから。ある意味、学問的な厳密さを捨てて、“実用的な最適解”を求めるソフトウエアの研究・開発が進み、一気に実用化が進んだのだ。多くの企業が導入した商用ソフト「CPLEX」を開発したビクスビー教授によれば、「88年から2003年の15年間でCPLEXは200万倍高速になった」という。そのうち1000倍はコンピュータの高速化によるもので、2000倍はアルゴリズムの改良によるものだとしている。

パルサミーノ・レポートでORが最重要分野と指摘

 こうした背景から、04年12月に米国の「産業競争力委員会」が発表した「パルサミーノ・レポート」では、21世紀のイノベーションを実現する上で最重要の学問の1つとして、ORが挙げられた。米国はORの研究では最先端を走っており、研究者の層も厚い。そうした背景から90年代にサプライ・チェーン管理(SCM)ソフトのブームを引き起こしたことも記憶に新しい。

 その米国に次いで「日本は世界でもナンバー2の位置を占めると世界でも認知されている」(今野教授)という。今野教授も、デリバティブの価格評定など、金融工学の分野で多くの業績を上げている。ORの研究が日本でもさらに進み、それによるイノベーションが数多く生まれることが期待される。