日産自動車は、千葉市の幕張メッセで開催中の「CEATEC JAPAN 2007」会場において、ITS(高度道路交通システム)への取り組みを披露している。クルマの周辺の状況を自動収集してドライバーに情報として提示するもので、危険を予測すると警告を発するほか、一部ながら運転を自動的に行う仕組みもある。会場近くの駐車場には、試作したシステムを実装した車両を持ち込んで、報道関係者向けに試乗会を実施している。この車両に試乗してみた。
今回試したのは3種類。車庫入れの際の安全確認を支援するパーキング・アシスト・システムの最新版、前車との車間距離を保ち衝突を避けるための自動ブレーキシステム、住宅地などでクルマと歩行者の事故を防ぐための歩行者検知システムである。
クルマを上から見た映像を表示、車庫入れを楽に
最初に試したのはパーキング・アシスト・システムの最新版だ。新たに、クルマを上から見下ろした様子をリアルタイムで車載ディスプレイに表示する仕組みを採り入れたのが特徴である。
画角が180度と広いカメラを、車体前後部のそれぞれ中央と左右のドアミラーに取り付けており、各カメラで撮影した映像を合成して上から見た映像を作り出している。実際の車庫入れの際には、この上からの映像と同時に後方や側面の映像も2画面表示する仕組みとしており、従来のパーキング・アシスト・システムより安全を確認しやすくした。このほか、車体の四隅にはソナーが付いており、壁や隣のクルマなどに近づくと警告音が鳴る。
「上からの映像を加えたことで、クルマの現在位置の把握が従来製品より大幅にしやすくなった。例えば、駐車場で区画の中央に停めたつもりが、実際はずれていたことに降りる際に気付いて停め直すといった失敗がなくなる」(日産自動車の説明員)とする。2007年10月に発売予定の「エルグランド」の新型車でオプション装着可能とし、今後もワンボックスカーを中心に導入を進めていく予定。
「前車に近づくとクルマが嫌がる」、アクセルを押し戻すアシストシステム
次に、自動ブレーキシステムを試した。前車との車間距離を保ちつつ、衝突の可能性がある場合は自動的にブレーキを掛ける仕組みである。主に都心部の高速道路や主要道など、交通量が多く渋滞や信号などによる速度低下や停止が頻繁に起こる道路を想定したシステムである。車体前部下に赤外線の発射部があり、ここから発射した赤外線を前車で反射させることで前車への接近を検知している。
前車と自車が共に走行している際、自車が前車に近づきすぎると、アクセルペダルに押し戻すような力を加える。それに従ってドライバーがアクセルペダルから足を離すと、安全車間を保てる程度まで自動的に減速する。前車へ急接近している際は、これに加えて音でも警告を出す。
前車が赤信号などで停車した際は、ドライバーがアクセルペダルから足を離していれば、自動的にブレーキを掛けて前車の手前で停止する。完全に停止後3秒経過すると、ブレーキが解除される。
ポイントは、音や表示による警告ではなく、ペダルを踏む足を押し戻すという触覚に訴える仕組みとしたことだ。「ドライバーにとっては、前車に近づくのをクルマが嫌がっているかのように感じるはず。音や表示よりもはるかに直感的に警告を理解でき、事故回避につなげやすい」(日産自動車の説明員)。
ただし、完全な自動操縦ではなく、あくまでドライバーを支援する従属的な役割としており、「ドライバーがアクセルペダルから足を離さなければ、自動的にブレーキが掛からないよう設計している」(日産自動車の説明員)という。とはいえ、ブレーキ操作についてはほぼ自動化されており、試乗の際にブレーキを踏む場面はほとんどなかった。渋滞の中で走ったり止まったりを繰り返すような場面では、ドライバーの操作の手間が飛躍的に改善されそうだ。同システムは高級セダン「フーガ」の2007年モデルに初搭載されている。
「ここから歩行者が飛び出すかも」、GPS携帯で歩行者の情報を収集
最後に、会場にほど近い千葉市内の住宅地で歩行者検知システムを試した。このシステムでは、見通しの悪い住宅地の生活道路で、クルマと歩行者の出会い頭の事故を防ぐためのものである。歩行者にGPSモジュール内蔵の携帯電話を持ってもらい、個々の歩行者から現在地の情報をサーバーに随時伝達する。クルマの進路に近く、かつ徒歩や自転車、電動車イスなどで移動中と思われる人を検知すると、音声とディスプレイ表示で警告を発する。
システムが作動するのは歩行者の事故が起こりやすい住宅地の生活道路のみとし、幹線道路などはサービスから除外することでサーバーの演算量を抑えている。また、高速移動中の人や移動していない人も、歩行中でない可能性が高いため除外する。
携帯電話はGPS機能付きであれば使用でき、車載クライアントも日産車にライン装着された純正カーナビがあれば、ファームウエアを書き換えるだけでこのシステムを使用可能になる。システムの運用規模に応じたサーバーは必要になるものの、ユーザーの負担が小さくて済むという利点がある。
このシステムは現在のところ実証実験の段階。2007年4月に最初のプロトタイプを作成し、現在は携帯電話50台、クルマ5台の規模で実験中。「2008年には携帯電話1000台、クルマ100台まで規模を拡大して実証実験したい」(日産自動車 技術開発本部 IT&ITS開発部 企画グループ 主管の福島正夫氏)。同社としては、歩行者の死亡事故を減少させる切り札として実用化を目指す考えだ。
新パーキング・アシスト・システムを用いて縦列駐車するところ。どの程度寄せればよいのかを明確に把握でき駐車しやすい。前のクルマに接触しそうになったところで、接近警報のブザーが鳴っている |
歩行者検知システム装着車で住宅地を走行しているところ。ドライバーが視認するより先に前方の歩行者の存在を警告してくれるため、飛び出しによる事故を未然に防げる。高速移動中の人や移動していない人は、歩行中でない可能性が高いため除外する |