ユビキタスは個人,企業,社会を変えていく。NGN(次世代ネットワーク)が次のユビキタス社会の基盤となる。しかし,環境問題と格差を解消する技術でなければならない」---NEC 代表取締役社長 矢野薫氏は10月2日,CEATEC2007の基調講演でこう語った。
NGNは通信の100年ぶりの大変革
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写真●NEC 執行役員社長の矢野薫氏 (撮影:皆木優子) [画像のクリックで拡大表示] |
この基盤の上で動く「サービスプラットフォーム」が新しいサービスを創出する。矢野氏はサービスプラットフォームを理解するための先行事例として,1秒間に7万5000件を処理するi-modeのゲートウエイや,NECのプロバイダBIGOLOBEインターネットを通じて映像コンテンツをオンデマンド配信する第2日本テレビを挙げる。
ユビキタスが個人と企業を変える
このようなユビキタス技術は個人と企業を変える。例えばホームサーバーによりデジタル家電,携帯電話,パソコンなどの好きな機器を使って,いつでも映像を観賞できる。「生活にITとネットワークが溶けこむ」(矢野氏)。企業では,ITとネットワークの活用が企業内および企業間プロセスを革新する。
社会も変える。例えば家庭のさまざまな場所に設置したセンサーと医療機関を結んだ予防医療システムなど,「安心・安全な社会の実現にITとネットワークを利用できる」(同)。
「一時期,日本から製造業がなくなってしまうのではないかとまで言われた。しかしトヨタが世界で勝ち,そのものづくりが日本全体にひろがり,再生しはじめている。その背後にあるのがITだ」(矢野氏)。
例えばNECの製品である小型マイクロ通信システム「パソリンク」の製造拠点では,トヨタ生産方式の「かんばん」を使い,部品在庫のない工場ができているという。工場内ではRFID(Radio Frequency ID)を使い,1台ごとに客先仕様設定と突き合わせて検査,不具合率を20分の1に減らした上に,人員を増やすことなく生産量を2004年の3.5倍にすることができた。
また企業内の革新の例として,矢野氏はNECブロードバンドソリューションセンターを挙げた。同センターは従業員が固定した机を持たないアドレスフリーのオフィスである。「机がないので紙を持てなくなる。環境にやさしいオフィスになった」(矢野氏)。コピー紙の消費量は66%減った。ITを使いオフィスに出社する必要を減らしたため,顧客対面時間は40%増えた。
「ユビキタス技術がもたらす,この変化を先取りした企業がこれから繁栄していく」(矢野氏)。
持続可能なユビキタス社会に向けて
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(撮影:皆木優子) [画像のクリックで拡大表示] |
格差の一つであるデジタルデバイドを解消する試みとして,矢野氏はNECが構築した,アルゼンチン サンルイス州の電子政府システムを紹介した。サンルイス州はアルゼンチンでも人口密度の低い州の一つであり,電気や電話もほとんど普及していない。そんな州にNECは電子政府システムを構築した。20人以上のコミュニティの集会所に電話とインターネットを使える端末を置く。集会所がないような場所でもインターネットを使えるようにするために,パラボラアンテナとパソコンを積んだ移動式インターネットサービス・カーを走らせた。
「すべての人にユビキタス社会の恩恵を届けたい。格差を克服するための技術を開発をしていく」(矢野氏)。
消費電力の軽減やITによる環境の負荷にも取り組んでいかなければならない。「情報通信機器の電力消費量は,対策を講じなければ2010年には95年の2倍になる」(矢野氏)。
NECはエコシンボル製品として,パソコンのフロントパネルに再生プラスチック,マザーボードに鉛フリーはんだを採用した。携帯電話のN704μは,動作電力やリーク電流を削減したシステムLSIにより待ち受け時間1カ月を実現した。また,前述したアドレスフリーのオフィスは,紙や従業員の移動の削減などでCO2排出量を43%以上削減した。そしてNECが海洋科学技術センターに納入したスーパーコンピュータ『地球シミュレータ』は地球環境の変化を予測し,地球環境変動観測ミッション(GCOM)の観測衛星は世界中の海洋の温度を観測し,人類に対するアラームを出している。
「ITとネットワークを通じ地球環境に貢献していかなければならない」と矢野氏は語った。