写真1●Nielsen Games部門Vice PresidentであるJeff L. Herrmann氏
写真1●Nielsen Games部門Vice PresidentであるJeff L. Herrmann氏
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 調査会社の米Nielsenは現在,ゲーム内広告の市場が今後拡大するとにらんで,テレビの視聴率調査に匹敵するゲームの利用実態調査を米国で展開している。同社のNielsen Games部門Vice PresidentであるJeff L. Herrmann氏(写真1)は9月21日,東京ゲームショウ・フォーラムで,その調査の一端を紹介した。

 Herrmann氏は,ゲームが今後,テレビやインターネット,ラジオ,新聞などに次ぐ広告メディアになると語る。「米国には18歳から49歳の男性が6500万人いるが,そのうちの4000万人がゲーム機を所有し,2650万人が毎週ゲームをしている。米国の男性向け人気テレビ番組『American Idol』を見ている18~49歳の男性の数は500万人で,1回の放映当たり50万ドルもの広告料金を稼ぎ出している。ゲームは非常に魅力的な広告媒体といえるだろう」とHerrmann氏は訴える。

 Nielsenは,広告媒体としてのゲームに着目し,広告主に対して説得力のある広告プランを打ち出せるよう,米国でゲームの利用実態調査を開始した。テレビと同じように,モニター家庭に専用の計測器を設置し,誰が何時間,どのゲームで遊んだかを記録しているという。

 同社が2007年7月に実施した調査(以下に紹介する数字は全て同じ調査時期)によれば,53%の米国人がなんらかのゲーム機を保有しており,18~24歳の男性に限っていえば,74%がゲーム機を所有しているという。「デジタル・ビデオ・レコーダーTiVoの普及率は17%であり,ゲーム機の普及率がいかに高いかが分かるだろう」(Herrmann氏)。

 また18~24歳の男性の53%が,1週間に1度は必ずゲームをしているという。Herrmann氏は,「彼らはゲームをしている時間,テレビも見ていないし,インターネットも見ていない。この層に食い込むためにはゲームが有効だ」と力説する。もっとも,ゲームは若い男性だけのものではない。「ゲーム・ユーザーの23.7%は女性だ。また,実際にゲームをやっている人の半分を,18~54歳が占めている。この世代は可処分所得が大きく,広告対象として魅力的であることが特徴だ」(Herrmann氏)という。

利用率が高いのはPS2,次世代機ではXbox 360がトップ

写真2●米国におけるゲーム機の利用実態
写真2●米国におけるゲーム機の利用実態
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写真3●ゲーム機別に見たセッション当たりのゲーム時間
写真3●ゲーム機別に見たセッション当たりのゲーム時間
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 Herrmann氏は,より詳細なゲームの利用実態も説明している。写真2は,米国で実際に使われているゲーム機の割合である。最も使われているゲーム機は普及台数の多いPlayStation 2で44.6%,次に多いのが初代Xboxの17.0%で,次世代ゲーム機の中で最も使われているXbox 360が9.7%と3位に食い込んでいる。以降,ゲームキューブが7.3%,Wiiが4.5%,PLAYSTATION 3が1.4%と続いている。

 Nielsenは,ゲームの利用時間も詳しく調査している。1週間当たりのゲーム時間は,全体の平均で見ると55分/週となる。ゲーム時間は世代によって大きく異なり,6~11歳は412分/週,12~17歳は145分/週,18~24歳は105分/週,25~54歳は34分/週で,Herrmann氏は,「18~24歳の世代でも,1週間当たり2時間近くゲームをしている実態が浮かび上がった」と語る。

 なお写真3は,ゲーム機別に見たセッション(ゲームをプレイした回数)当たりのゲーム時間の現状である。ゲーム時間の平均は62分だが,Xbox 360は同70分,PLAYSTATION 3は同68分で推移しており,ハイエンド次世代ゲーム機が,ゲーム時間の長いコア・ゲーマーに支持されていることを示している。

テレビと重なるゲームのゴールデン・タイム

 Herrmann氏は,「ユーザーがいつゲームをしているかにも着目している」と語る。というのも「広告主は,広告を行う時間帯のことを強く意識している」(Herrmann氏)からだ。Nielsenの調査では,夕方の5時から夜の11時が,ゲーム利用のピークに当たることが明らかになった(写真4)。

 ただしこれも,世代によって傾向は大きく変化する。17歳以下のゲーム利用のピークは午後5時から午後11時だが,18~34歳のピークは11時を示している。Herrmann氏は,「テレビの広告料金が最も高い時間帯に,ユーザーがゲームをしている」と指摘する。また,ゲーム機によっても,利用時間帯のピークは異なり(写真5),Wiiのピークが夕方5時であるのに対して,PLAYSTATION 3のピークは午後11時となっている。

写真4●世代別で見たゲーム利用のピーク時間 写真5●ゲーム機別で見たゲーム利用のピーク時間
写真4●世代別で見たゲーム利用のピーク時間
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写真5●ゲーム機別で見たゲーム利用のピーク時間
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 なおHerrmann氏によれば,「ゲーム・ユーザーはテレビの視聴時間をゲームに割いているのは間違いないが,テレビを全く見ていないわけではない」とも指摘する。同社の調査によれば,米国における平均的なテレビ視聴時間は1820分/週だが,ゲーム・ユーザーのテレビ視聴時間は1653分/週であり,依然として高い水準を維持している。

BioShockのヒットでHalo 3の購買意欲に陰り

 Nielsenは現在のところ,ゲーム機を対象とした調査において,ゲーム・タイトルに関する分析を行っていない。ただし,同時期に行ったパソコン向けゲームにおける調査では,どのゲーム・タイトルに人気があるか調査をしているので,その数字を紹介した。

 同調査によれば,2007年7月現在におけるパソコン用ゲームの利用シェアが最も高いのは「World of Warcraft」で16.0%を占めるという。2位以下は,「The Sims」が4.3%,「Halo: Combat Evolved」が2.8%,「Madden NFL 2007」が2.8%,「Halo 2」が2.7%と続く。

 World of Warcraftの人気は圧倒的で,同タイトルのユーザーが遊ぶWorld of Warcraftのゲーム時間は1045分/週にも及ぶ。ちなみにThe Simsは341分/週,Halo: Combat Evolvedは427分,Madden NFL 2007は401分/週,「Halo 2」は451分/週である。

写真6●Halo 3の認知率と購買意向の推移
写真6●Halo 3の認知率と購買意向の推移
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 またNielsenは,ゲーム・タイトルの認知率や,購買意欲についても調査している。米Microsoftの人気タイトルの続編で,2007年11月に発売が予定されている「Halo 3」に関して,Xbox 360ユーザーの86%が「Halo 3の存在を知っている」と答えている。しかし,「Halo 3を買いたい」という率には,興味深い変動が見られた(写真6)。2007年8月中旬までは,Xbox 360ユーザーの4割が「Halo 3を買いたい」と答えていたが,同ジャンルのアクション・ゲーム「BioShock」が8月21日に発売されると,その率は25%まで一時的に低下した。つまり,Halo 3を買いたいという意向は,BioShockによって急落したわけだ。

SCEと協力してPLAYSTATION 3の利用実態調査も

 Herrmann氏は,今後のゲーム利用実態調査の計画も明らかにしている。Nielsenはソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)と協力し,米国で「PLAYSTATION 3」における広告効果の測定を実施する予定だ。調査対象にはネットワーク・サービスである「PLAYSTATION Network」や,2008年春のサービス開始が予定されている仮想世界「PLAYSTATION Home」も含まれる。

 Herrmann氏によれば,「名前などの個人情報を省いたデータが,SCEからNielsenに提供される。Nielsenは第三者の調査としてゲーマーの挙動を分析し,調査結果をSCEやサード・パーティ,広告主に提供する。詳細なデータが集まることによって,広告主は確信を持って広告を出せるようになるだろう」と語る。

 Nielsenによるゲーム利用実態調査は,現在のところ米国でのみ行っている。ただしHerrmann氏は「この計測システムは米国用に開発したものだが,グローバル展開ができないか検討している。2008年になれば,欧州などでの展開も明らかにできるだろう」と,他国でも開始する可能性があることを示唆した。

 最後にHerrmann氏は,「18~34歳のゲーマーは,広告ターゲットとして魅力的だが,捕まえづらい層でもある。コカコーラのような若者を相手にした消費財メーカーは,依然としてこの年齢層を主要なターゲットとしており,新しいメディアとして,ゲームに注目していくだろう」とまとめている。