東京を舞台にした、ユビキタスコンピューティング社会への取り組みが相次いでいる。中核となるのは東京都の都市整備、建設、産業労働の3局が中心となって進めている「東京ユビキタス計画」と名付けた取り組みである。

銀座がユビキタスの街に

 2007年度内に東京・銀座で、民間企業が参加する実証実験を都は開催する。専用の情報端末を使うことで、銀座を訪れた人たちがさまざまな情報を得ることができるようにする。07年1月~3月に東京都は、銀座通りと晴海通りの商店街が企画に参加した実証実験を実行した。前回の実験で設置した機器等を活用し、ユビキタス技術の実用化・市場化を進める。実験に参加する民間企業は公募した。

 東京都都市整備局総務部の湯地敏史 副参事<調整担当>は「民間からユビキタス技術に取り組む動きがあるのはありがたいことだ」と話す。さらに同氏は「初めて東京を訪れた人、子供、お年寄りの誰もが、いつでもどこでも必要な情報を得られるようにしたい。平等に情報を得ることができるのは、一種のユニバーサルデザインである。不自由を感じることなく東京観光を楽しめる社会を、最先端のユビキタス技術で実現したい」と言う。

 こうした考えは今年1月からの実験にも反映されている。銀座を訪れる人々の目的は様々だ。観光でやって来た人と買い物したい人では、欲しい情報は違う。そのため銀座の観光スポットの案内と解説を行う「観光モード」、行きたい店舗を選択し自分の歩行ルートをチェックしながら街歩きができる「ナビモード」を用意した。さらに提供する情報は多国語に対応させた。

 実際にユビキタス計画を進めるに当たって、東京都は周囲の環境の調和に気を遣った。銀座の実験では、景観を乱さないようにデザインを重視し、4種類のデザインのICタグを用意したという。

 民間企業による取り組みもある。今年8月から、東京・六本木の東京ミッドタウンでは、施設内でユビキタス・アートツアーという、事前Web予約制のイベントを毎日開催している。このイベントを企画したのは、東京ミッドタウンの運営会社である東京ミッドタウンマネジメントである。このイベントには計画段階から、東京都がオブサーバーとして参加している。

 同社広報部は「多様な機能、施設が集約的に存在するこの場所を訪れた人々が、最適な情報やサービスを得られるようにするにはどうすべきかを考えた取り組みの1つだ」としている。東京ミッドタウンでは、設計段階からユビキタス技術を取り入れたという。

 将来の取り組みについては「デザイン・アートの街を目指すため、まずはインフラとしてのユビキタス技術をアートツアーで活用した。今後は、アートツアーの参加者のフィードバックなどを踏まえ、店舗やイベントの情報提供や身障者の方々の誘導手段などとしての活用を検討していきたい」と答える。

独自技術ゆえの課題も残る

 東京都と東京ミッドタウンマネジメントは共にすべてYRPユビキタス・ネットワーキング研究所(所長 坂村健氏)が開発した技術を採用している。専用携帯情報端末(ユビキタスコミュニケータ:UC)がICタグや赤外線マーカ、無線マーカにアクセスして場所情報を取得し、無線LANを使用してその場所に応じた情報を格納サーバに問い合わせる。そして指定したサーバに格納した情報を受け取るというものだ。

 東京都が取り組みを始めたきっかけは、2004年に石原慎太郎都知事がYRPユビキタス・ネットワーキング研究所を訪れたこと。東京都の観光推進のためにユビキタスコンピューティング技術は不可欠であると知事が実感し採用が決定した。「情報新技術を活用したまちづくりの推進」が重点事業になった05年に、上野公園・上野動物園での実証実験、秋葉原でユビキタス技術の展示会を開いた。

 ただ同研究所のユビキタス技術が完璧だというわけではない。まずUCが携帯などの他インフラと違った特殊な技術を利用しているため、インフラの整備に手間がかかる。街を歩いているときの地図ナビゲーション反応も低く、機能改良など技術面の磨き上げが必要である。街中での適応も難しい。

 都市整備局総務部企画経理課の渡邉一史 企画調整担当係長は「場所によっては電波干渉が大きな問題になる。銀座の実験では、長距離トラックの無線電波、店舗からの無線LANなどによって電波が輻輳してUCの利用に影響が出た。地下に入ればGPSは使用できないので、無線マーカの配置にかなりの工夫が必要だった」と語った。

 法規制も影響する。東京都が銀座の街中に取り付けたマーカは乾電池で動かすようにしている。ICタグやマーカの道路上への取り付けを実験目的以外では法律上では認めていないことが原因である。この問題を解決するには、原則として法を改正するしかない。

 今後のユビキタスコンピューティング社会に対する東京都の取り組みについて、湯地氏は「明確なゴールは定まっていないが、東京都は『10年後の東京 ~東京が変わる~』で、重点的にユニバーサルデザイン街づくり整備を進める街として都内の10地域を指定した。この計画に沿って都全体で整備を進めていく」と話す。このほか、10年の実用化を目指す、国土交通省の自律移動支援プロジェクトと連携し、ユビキタス技術を使ったバリアフリー情報提供を進めていく。

■変更履歴
本文第一段落で「中核となるのは東京都の都市整備、建設、企画労働の3局が中心となって進めている「東京ユビキタス計画」と名付けた取り組みである」とあるのは中核となるのは東京都の都市整備、建設、産業労働の3局が中心となって進めている「東京ユビキタス計画」と名付けた取り組みである」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2007/09/25 17:45]