写真1●野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部 社会ITマネジメントコンサルティング部 主席研究員の山崎秀夫氏
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写真2●マヤ遺跡を訪ねるツアーのマーケティングにセカンドライフを利用したメキシコ旅行協会
写真2●マヤ遺跡を訪ねるツアーのマーケティングにセカンドライフを利用したメキシコ旅行協会
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写真3●CATVの音楽専門局MTVがセカンドライフ内に立ち上げた参加型テレビ「VMTV」
写真3●CATVの音楽専門局MTVがセカンドライフ内に立ち上げた参加型テレビ「VMTV」
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 「セカンドライフのマーケティング活用のポイントは,仮想世界での体験をいかに現実の商品の購買意欲へと結びつけるか,そのシナリオ作りにかかっている」。9月19日に東京都内で開催されたマイクロソフトのWeb開発者向けイベント「REMIX07」で野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部 社会ITマネジメントコンサルティング部 主席研究員の山崎秀夫氏(写真1)が講演し,社会心理学を応用したセカンドライフのビジネス活用法について語った。

 「ある人物がセカンドライフという仮想世界の中で自分の分身(アバター)になりきっているときと,現実世界で普通の生活をしているときとでは,別の人格になっている。セカンドライフをマーケティングに活用する場合,まずこのことを最初に理解する必要がある」と山崎氏は強調する。仮想世界でアバターになりきっている人に,現実の商品をそのまま売ろうとしてもうまくいかない。米国のアパレル業界は,洋服こそアバターが一番欲しがる商品だと考えて参画したが,思惑は外れ,わずか1年でセカンドライフから撤退したという。

 そこで重要なのが,仮想世界を現実へとつなげるシナリオ作りである。例えばメキシコ旅行協会は,マヤ遺跡を訪ねるツアーのマーケティングにセカンドライフを利用して成功した。同サイトの島(シムアイランド)全体にチェチェンイツア遺跡をリアルに再現し(写真2),そこへ利用者(アバター)を招き入れる。アバターはマヤ人の衣装を提供され,マヤ人になった気分で遺跡の中を自由に歩き回る。このエクスペリエンス(体験)によって利用者は実際に遺跡を訪問したくなり,ツアーの申し込みサイトへ向かうというシナリオだ。

 映画やテレビのプロモーションにも成果を上げている。英国系のマーケティング会社のPicture Production Company(PPC)は,セカンドライフ内にシルバースクリーン・アイランドという映画のテーマパークを設け,ユニバーサル,ワーナー・ブラザーズ,20世紀フォックスなどを誘致した。映画「300」ではセカンドライフ内で記者会見を開き,監督や俳優,記者,ブロガーまでがアバターとして参加し,その様子をYouTubeで公開して反響を呼んだ。利用者のアバターはスパルタの衣装を着て映画のシーンに入り込み,まるで登場人物になったかのような気分を楽しめる。こうして映画に親近感を持ったところで,実際に映画館に足を運ぶというシナリオである。

 またCATVの音楽専門局のMTVは,参加型テレビの「VMTV」をセカンドライフ内に立ち上げ,一部番組をテレビより早く放映することで人気を集めている(写真3)。タレントとのチャットや利用者同士の社交場があり,利用者数は今年3月の開設から半年で64万人に上ったという。

 実際にセカンドライフのマーケティング利用で成果を上げているのは,音楽や映画,旅行,金融コンサルティングなどの眼に見えないものを売るビジネス。逆に衣服などの物販は苦戦している。物販はそれだけシナリオ作りが難しいということだ。

 「セカンドライフは徹底したDIY(Do it Yourself)型のサービス。自律的,能動的に参加したい人には楽しいところだが,受け身的に人とのつながりを求めてやってくる人には冷たい社会。自我が成熟していない若年層向けのマーケティングには,mixiなどのコミュニティと連携するといった工夫が必要だろう」と山崎氏は説明する。日本でもNTTドコモなどが今年からセカンドライフのマーケティング実験を始めており,しばらくは模索が続きそうだ。