保護利用小委の第7回会合
保護利用小委の第7回会合
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 文化庁長官の諮問機関で著作権の保護期間の延長問題などを取り扱う、文化審議会 著作権分科会 過去の著作物の保護と利用に関する小委員会(保護利用小委)の第7回会合が、2007年9月3日に開催された。

 この日の会合では、保護期間の延長問題に関する集中討議が行われたが、複数の委員から保護期間の延長に反対する意見が多数挙げられた。権利者側は、早ければ2008年の通常国会で著作権法の改正を可決し、2009年初頭にも保護期間を死後50年から70年に延長したい考えだが、実現は微妙な情勢だ。

「年間100万円超の著作権使用料、突然なくなるとショック」

 保護期間の延長問題では、延長に賛成する意見と反対する意見が鋭く対立。解決の難しさを浮き彫りにした。

 三田誠広委員は、「谷崎潤一郎、江戸川乱歩、横山大観などはあと数年で保護期間が切れる。彼らの遺族が受け取る著作権使用料は、それぞれ年間100万円を超える額だ。これらが突然切れるのはショッキングなこと。遺族の権利を守りたいし、それが作家のインセンティブ向上をもたらす」と、従来の主張を繰り返した。

 また都倉俊一委員は、ミュージカルの世界で脚本、歌詞、楽曲を日米英の創作者が分担するというケースを仮定し、保護期間の算出方法の違いを説明する資料を配布。その上で、「初演国が米国か英国か日本かによって、保護期間が変わってきてしまうという問題がある。こうした保護期間の長短が原因で、日本国内でのミュージカルの上演に影響が出る可能性も考えられる」と主張し、死後70年としている欧米主要国に保護期間をそろえることの必要性を改めて強調した。

 延長に賛成する意見としては、このほか次のようなものがあった。

 「作品を発表する場が有体物からインターネットへ変わってきている。欧米より先に保護期間が切れたからといって、日本のサーバーから世界へ向けてコンテンツが発信されるのを放っておいて良いのか。実際に不都合が現れる前に対策を講じておくべき」(瀬尾太一委員)。

 「安定的な職業に就く人には退職金もあるし、株式や土地を買うこともでき一定の財産を残せる。一方で創作者は、生前にそうした財産を残すことはできず、ただ創作物を遺族に遺すだけだ。安定的な職業の人と差があって良いのか」(里中満智子委員)。

 「希有な才能と並はずれた努力をした人を誰がとがめられるというのか。そういう人は死後50年といわず、いくらでも稼いで問題はないはず。議論の方向性があまりに平準化の方向に向かうのは良くない」(都倉俊一委員)。

 「日本が今後コンテンツ分野で海外展開していく中で、保護期間が短いままでもリーダー国として発言力を持てるのか。広い視点で保護期間問題を考えるべき」(生野秀年委員)。

「祖父の著作権で孫がのうのうとするのは、社会正義としてどうか」

 一方で、保護期間の延長に反対する意見も多く出た。平田オリザ委員は、「日本文藝家協会は著名作家の遺族、それも40~50代以上の遺族のためだけに、現在自由に使えている(死後50年以上70年未満の)著作物を使えなくさせようとしている」と述べ、三田委員の意見を痛烈に批判した。さらに中山信弘委員も、「谷崎潤一郎や横山大観の著作権切れは、そんなに悪いことなのか。十分に儲けた人がさらに収益を得るだけ。祖父の著作権で孫がのうのうとするというのでは、社会正義としてどうなのか」と二の矢を放った。

 このほか、以下のような反対意見が表明された。

 「向こう10年で保護期間が切れる著作物のうち、経済的価値のあるものは1%以下だろう。その1%のために保護期間を延長すると、残り99%超の流通が阻害される。また、日本と欧米では著作権の規定が異なることも多いし、欧州と米国でも違う点は多い。なぜ保護期間問題だけを選別的に取り上げ、欧米に合わせようとするのか」(金正勲委員)。

 「日本のサラリーマンでも、近年は退職金が出ない人が増えている。創作者でも株式や土地を買うことはできるし、創作者とサラリーマンの違いはさほどない。日本の著作権法は罰則規定が世界的に見ても厳しくなっているし、米国の著作権法では相互主義を排除している。欧米にそろえるため保護期間を延長するというのは理由にならないし、延長したところで完全にそろうわけではない。都合良く長い方に合わせようとしているだけではないか。もし本当に保護期間をそろえたいならば、世界知的所有権機関(WIPO)に提案して、その決定に従うというのはどうか」(津田大介委員)。

 「以前の会合で実施した関係者からのヒヤリングにおいて弁護士の福井健策氏は、著作権に関連する契約を多数手掛けてきたが、法律の規定の違いが契約に影響することは一度もなかったと表明していた。そうした意見は尊重すべき。保護期間が短いからといって、日本で著作権関連の契約をしないという人はいないだろう」(平田委員)。

 「欧州連合(EU)では保護期間を延長する際、商品の自由流通や平均寿命の延びを理由として挙げていたが、そうした理由を日本にそのまま当てはめられるのか。物流や貿易を域内で自由化しているEUと日本は異なるし、日本のサーバーで公開したコンテンツに、例えばフランスからアクセスされることがどれくらいあるのか検証が必要。平均寿命も、かつて55歳だったものが75歳に延びていれば、その分著作者の存命期間が延び、保護期間もその分延びることになる。また著作者の寿命が延びれば、著作者の死亡時点における子供の年齢も上昇するわけで、遺族の財産保護の必要性を正当化できないのでは。賛否いずれにせよ、十分な根拠を出すよう慎重に検討すべき」(上野達弘委員)。

権利者データベース、実現性に疑問相次ぐ

 権利者団体17法人が共同で8月31日に発表した著作物検索用ポータルサイトと権利者データベースについては、17法人の取りまとめ役である三田委員が構想を説明した。しかし保護利用小委の委員からは、構想通りにデータベースの整備が進まないことを懸念する声や、費用対効果の見込みが甘いのではないかとする疑問の声が相次いだ。

 「一定規模のWebサイトを整備するにはかなりの額がかかる。費用の面はどうするのか。(各権利者団体のデータベースに対する)入口が1カ所になるという、それだけのことか」(中山委員)。

 「アクセスの集中や死亡年月日データの整備、掲示板の記載内容に対する正確さの担保など課題が多い。200万円~300万円という初期費用で(二次利用を希望するユーザーの)利便性が大幅に向上するというのは大げさではないか」(津田委員)。

 「現時点で著作権の管理事業をしている団体はほとんどないし、権利者団体に登録していない創作者も多いのではないか」(梶原均委員)。

 「Webサイトの整備と保護期間の延長を結びつけるのは無理があるし、二次利用の諸手続きにかかる処理費用の増大をどうするのか、現時点で実効性のある案はまだ出てきていない」(金正勲委員)。

 「開発したWebサイトが三田委員の言うとおりに機能すれば良いが、それを実現させるための方策などに対する言及がなかった」(佐々木隆一委員)

 これらの意見に対し三田委員は、「ポータルサイトを設けるだけでもユーザーには非常に便利になる。実現に向けた課題は、保護利用小委で今後も話し合っていき、文化庁にもアイデアを出してもらえれば、進めていけると思う」としたが、各委員の疑問に正対した回答は示さなかった。

■変更履歴
記事掲載当初、「希有な才能と並はずれた努力をした人を誰がとがめられるというのか。そういう人は死後50年といわず、いくらでも稼いで問題はないはず。議論の方向性があまりに平準化の方向に向かうのは良くない」との意見について、常世田良委員の発言として掲載しておりましたが、正しくは都倉俊一委員の発言でした。お詫びして訂正いたします。本文は訂正済みです。[2007/9/4 14:00]