米Symantec会長兼CEOのJohn Thompson氏は,間違いなく有能な人物だ。しかし同氏が2006年に行った発言は,米Microsoft自体と最新OS「Windows Vista」への不満に多くの時間を割き,自社製品をあまりプロモーションしなかった。Microsoftからみると,Thompson氏は抜けずに残っている目障りな“トゲ”のような存在である。さらに,8月最終週になって同氏は,恐怖の「m」ワード――つまり「monopoly(独占)」――を持ち出し,Microsoftに対する批判を新たな段階へ移した。

 Thompson氏はニューヨークの証券取引所NASDAQで8月最終週,Microsoftが先ごろ会員制サービス・パッケージ「Windows Live OneCare」でクライアント・セキュリティ市場に進出したことについて発言した。OneCareは安価なうえ機能が豊富で,特にセキュリティよりもパソコンのメンテナンス向けの機能を多く備えている。そのため,この種のソフトウエアに対する消費者とセキュリティ・ベンダーの考え方を変えてしまった。

 Thompson氏は「OneCareが独占的だと述べる意図は無いが,われわれからはそのように見えることもあった」と話した。当然この発言は,現在MicrosoftがWindowsというセキュリティ・ホールの存在するソフトウエアと,こうしたセキュリティ・ホールを攻撃から守るソフトウエアの両方を販売している行為を非難している。OneCareがリリースされるまで,Symantecの競争相手は少数の大手セキュリティ・ベンダーと,多くの小さく非力な同業他社だけだったのだ。

 さらにThompson氏はMicrosoftとOneCareについて軽く補足し,OneCareが「消費者向けセキュリティ技術に対する事前の期待を焼き直しただけ」と指摘した。もちろんSymantecは,OneCareという脅威に自社製品「Norton 360」で対抗した。Norton 360はパソコン向けセキュリティとメンテナンスの両機能を備え,驚くほどOneCareに似ている。ただし料金はOneCareより相当高く,Thompson氏がOneCareの料金体系を“略奪的価格付け(ある商品を極端な安値で販売し,競合他社を市場から追い出した後で価格を上げて利益を得る戦略)”と考えて対Microsoft独占批判を展開していることは疑いようもない。

 Thompson氏は「Norton Internet Security 2008」と「Norton Antivirus 2008」の発売を祝うためニューヨークを訪れた。その際Thompson氏は反Microsoft“口撃”と新製品の発表だけでなく,Symantecが100億ドルで実施した2005年の米VERITAS Software吸収合併に匹敵する大規模買収を全く計画していないことも明らかにした(関連記事:米Symantec,米VERITASとの合併完了と新しい取締役員を発表)。つまり同氏は,変化する市場の要求に対応するため,Symantec自体と自社製品を大きく変えても構わないと述べたのだ。