写真●携帯各社の社長が勢ぞろいした「モバイルビジネス研究会」
写真●携帯各社の社長が勢ぞろいした「モバイルビジネス研究会」
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 総務省は8月29日,携帯電話・PHS事業のあり方を議論する「モバイルビジネス研究会」の第9回会合を開催した。会合には,NTTドコモの中村維夫社長,KDDIの小野寺正社長兼会長,ソフトバンクモバイルの孫正義社長,ウィルコムの喜久川政樹社長,イー・モバイルのエリック・ガン社長が出席。携帯電話・PHS5社の社長が勢ぞろいする異例の会合となった(写真)。

 研究会ではこれまで,端末代金と通信料金を分離したプランや将来的なSIMロック解除,MVNO(仮想移動体通信事業者)の参入などを推進する方向で報告書案をまとめていた(関連記事)。会合では,携帯電話,PHS5社の社長がこの報告書案に対する意見を述べた。

「ビジネスモデルは事業者の自主性に任せるべき」との意見相次ぐ

 NTTドコモ,KDDI,ソフトバンクモバイルの大手3社のプレゼンテーションで,分離モデルやSIMロックの解除が望ましいとする研究会の報告書案は承服しかねるとする意見が相次いだ。

 なかでもソフトバンクモバイルの孫社長は,「ビジネスモデルを強制するやり方は,基本的な思想として受け入れがたい。行政はイコール・フッティングなど競争環境の整備に力を入れるべきであって,ビジネスモデルは民間企業に任せてもらいたい」と研究会のあり方を根本的に疑問視している旨を表明。「ビジネスモデルについて,望ましいとか望ましくないとかという議論そのものが不要だ」と,事業者の自主性に任せるべきとの見解を示した。

 KDDIの小野寺社長兼会長も同様で,販売モデルについて「これまで以上に分かりやすく多様な選択肢を用意することは適切だが,それは事業者の自主性を尊重して頂きたい」とした。NTTドコモの中村社長は,「負担の透明性,公平性確保に手当ては必要だが,分離プラン以外にもその実現方法はあるのではないか。また,ユーザーへの激変緩和措置として現行モデルとの併存はやむをえない」(中村社長)と特定の販売方法に一本化することに慎重な姿勢を見せた。

 SIMロックの解除については意見が分かれた。NTTドコモとソフトバンクモバイルは,SIMロック解除を強制すべきでないとの立場を示した。その理由として,SIMロックを解除しても利用できるサービスが限定的であること,通信方式が同一でないため公平な競争環境が確保できないことを挙げた。また,「SIMロック解除が進んでいる欧州でも,最近はSIMロック解除の意義は薄れている。英ボーダフォンや仏オレンジがデータ通信サービスを開始して,端末を含む垂直統合的な競争になってきた」(NTTドコモの中村社長)という意見もあった。

 一方,KDDIは「利用期間付きの導入などで端末コストの確実な回収が図れるならば,SIMロックの解除は可能」(小野寺社長兼会長)とした。SIMロックが解除されると顧客の流動性が高まるW-CDMA方式を採用する陣営と,影響が限定的なCDMA2000方式を採用する陣営の差が現れた格好だ。

ウィルコムとイー・モバイルは報告書案に賛成も温度差あり

 ウィルコムとイー・モバイルは,報告書案に賛成した。ただしウィルコムは,「端末の割賦販売や端末プラットフォームのオープン化,MVNOへのネットワーク貸し出しなどを自社が実施済みだから賛成」(喜久川社長)という同社の状況の説明にとどまり,業界全体に対するあるべき論には言及しなかった。

 一方のイー・モバイルは,報告書案に積極的に賛成した。同社は全国網の整備が完了していないため,安価に他社の携帯電話ネットワークを借りたいという思いがある。そのため,NTTドコモをはじめとした携帯電話事業者に対し,販売奨励金を圧縮して接続料を安価にしたり,通信プラットフォームの共通化したりすべきとの意見を表明した。

 こうしたイー・モバイルの主張に対し,NTTドコモの中村社長が「そもそも,携帯電話事業の免許は全国にネットワークを作ることが交付の条件ではなかったのか」と切り返し,会合が一触即発の空気となる一幕もあった。

MVNOに事業リスクの共有を求める

 MVNOについては,大手3社は総論としてMVNOの促進には賛成だが,一律の料金プランを作成して公開することには反対とした。

 一律の義務化に反対する理由として,KDDI小野寺社長兼会長は「独占事業体のNTTがあった固定通信とは異なり,携帯電話網は各事業者がリスクを負ってゼロから投資・構築した。そもそも歴史的経緯が異なるため,事業者同士のビジネス・ベースの交渉に委ねるべき」と固定通信と同様の規制を推進しようとする研究会をけん制した。

 NTTドコモの中村社長は,「周波数のひっ迫から,我々が自社のユーザーに対して音声定額サービスを提供できるのはかなり先になる。しかし,MVNOの義務化で(同じドコモ網を使う)MVNOだけが音声定額をできるとなると,携帯電話事業者のユーザーとMVNOの間で不公平が生じる」と懸念を表明。ソフトバンクモバイルの孫社長は「MVNOの義務化で事業に制限を付けられると,我々がNTTドコモやKDDIと戦えなくなる。結果として,事業者間の競争が成り立たなくなる」とした。

 一方,イー・モバイルは,MVNOとして借りる側からの意見として「ビジネス・ベースの相対契約だと対等に交渉できない。NDA(秘密保持契約)を結んで交渉することになるため,何かあっても総務省にすら文句を言うことができない。透明性を確保するルールを作って欲しい」(ガン社長)と主張した。

 料金プラン以外に,「MVNOにも事業者としての責務を共有してもらいたい」(KDDIの小野寺社長兼会長)という意見もあった。事業者の責務とは,ネットワークの刷新や安定性といった事業リスクにかかわるものだ。携帯電話では,第2世代方式から第3世代方式,第3世代方式から第4世代方式への切り替えや,周波数の変更などが起きている。

 小野寺社長兼会長は「MVNOのなかには,端末を10年間使う前提の計画を立てる方もいる。しかし,ネットワークの変更で10年経たずに端末を交換しなければならなくなる可能性がある。そのコストはMVNOが負担するべき。我々は負担できない」という。

 また,ネットワークの安定性では,NTTドコモの中村社長が「安いからという理由で,市販のルーターを使って接続を求める事業者もいる。しかし,網障害はすべてに影響する可能性があり,受け入れにくい」とした。KDDIの小野寺社長兼会長,NTTドコモの中村社長ともに,MVNOに対して携帯電話の制度,技術への理解を求めた。

 研究会の次回会合は9月中旬に予定されており,総務省はここで報告書をまとめる方針だ。