コンサルティング大手の米アクセンチュアでチーフ・テクノロジー・ストラテジストを務めるボブ・スー(Bob Suh)氏が来日し、日経情報ストラテジーのインタビューに応じた。同氏は、アクセンチュアのテクノロジーサービス部門の戦略策定を担当。世界中のCIO(最高情報責任者)約150人が参加する「CIOグローバルカウンシル」を統括しており、直接の対話を通じて、CIOの問題意識に精通している。

 スー氏は、「企業のCIO(最高情報責任者)は10代の若者のコミュニケーションスタイルに留意して、関連技術を積極的に採用すべきだ」と主張した。スー氏とのやり取りは以下の通り。



アクセンチュアのチーフ・テクノロジー・ストラテジストであるボブ・スー氏

企業の経営者やCIOは、現在のIT(情報技術)の動向をどうとらえるべきか。

私は各国の企業のCIOと直接話をする機会が多い。最近よく質問を受けるのが、「ウェブ2.0」に関することだ。この分野は世代間のギャップが表れやすく、注意しておかなければIT活用の方向性を見誤ることになる。

ネット上の消費者にどう対応すればいいのか。

 発想を転換するしかない。中国・北京の紫禁城(故宮)の敷地内に米スターバックスが出店していたが、ある中国人が自身のブログでこの出店を批判したのをきっかけにネット内外の論争が盛り上がり、スターバックスは撤退に追い込まれてしまった。

 「(企業が自由に操縦できる)モーターボートの船長」から「(流れに任せる)帆船の船長」になったものだと考えを改めるしかない。

 同じ中国では、米日用品メーカーが、携帯電話を使ったアンケートで商品に対するフィードバックをリアルタイムに取得する仕組みを運用している。このような形でネット上の消費者を企業活動に取り込むこともできる。

ネット上の消費者の動向について実感がわかない面もある。

 日本に限らずどこの国でも企業の経営者やCIOには40~60歳代の人が多い。我々の調査によると、この年代層は、ITを生産性向上のツールと考える傾向が強い。しかし、ウェブ2.0現象を担う10~20歳代の世代は、ITを生産性向上ではなく「社会的なコミュニケーションのためのツール」ととらえている。10~20歳代はインスタントメッセンジャーやオンラインゲームを使ったリアルタイムのコミュニケーションに慣れているが、40~60歳代でのインスタントメッセンジャーの利用率はかなり低い。

 こうしたギャップを解消するには、まず経営者やCIOがオンラインゲームで遊んでみるべきだろう(笑)。最近のITのイノベーションの多くは、企業向けの分野ではなく、消費者向けの、特にゲームの分野で起きている。オンラインゲームの世界では、東京とロサンゼルスの人がリアルタイムでコミュニケーションを取りながら遊んでいる。国境を越えたコラボレーション技術は、企業向けシステムよりもゲームの世界のほうがずっと発達している。こうした技術を企業内にも取り込むべきだ。

世界のCIOからほかにどんな話を聞いているか。

 SOA(サービス指向アーキテクチャー)についての関心が高い。特に「単一のベンダーに囲い込まれる状況を避けたい」という意見をよく聞く。

 全体としては、メインフレームにおけるIBMや、ビジネスアプリケーションパッケージにおけるSAPといったようなベンダーの力は弱まり、ネット上の仮想化された「サービス」を組み合わせて利用する流れがあると見ている。

 ベンダー側は、自社1社だけではSOAに対する企業への期待に応えられないはずだが、従来の支配力を失う世界に移行するには勇気がいる。こうしたベンダーの動向を注視する必要がある。