東京ビッグサイトで開催された「ワイヤレスジャパン2007」の会場で2007年7月20日、「モバイル向け放送」と題したセミナーが開催された。将来登場する見込みの携帯電話向け多チャンネル放送に関して、技術とサービスの両面から専門家が展望を明らかにした。具体的には、米クアルコムが開発した「MediaFLO(forward link only)」の技術的なメリットをクアルコム ジャパンが、MediaFLOを用いたサービスの具体像をKDDIグループのメディアフロージャパン企画とソフトバンクグループのモバイルメディア企画がそれぞれ紹介した。
現在の携帯電話でもワンセグで放送局の番組が見られるが、チャンネル数が限られている。携帯電話向け多チャンネル放送は、CS放送「スカパー!」のように1社が数十チャネルの番組を提供するのが特徴。2011年以降、地上アナログテレビ放送が終了することに伴ってVHF/UHF帯に新たな空き帯域が生まれる。総務省はその再利用先として、帯域の一部を携帯電話向け多チャンネル放送にも割り振る見込み。メディアフロージャパン企画やモバイルメディア企画だけでなく、フジテレビジョンなどが共同で設立したマルチメディア放送企画LLC合同会社(MMBP)も参入を狙っている。メディアフロージャパン企画とモバイルメディア企画がMediaFLOを採用するのに対し、MMBPはワンセグ放送で使われる国際標準「ISDB-T」の兄弟規格「ISDB-Tmm」を採用するという違いがある。
クアルコム ジャパンの前田修作事業戦略部長は、先行する海外でのMediaFLOサービスの事例を紹介した。「クアルコム自身が周波数帯域を米国で獲得し、22の州33の都市にアンテナを設置済み。携帯電話事業者である米ベライゾンワイヤレスがこのインフラを利用して3月にサービスを開始した。米AT&Tも年末までに開始する見込みだ」(前田部長)。ベライゾンの場合、CBS、ESPN、FOX、MTVなど8チャンネルを月額13ドル~で見られるサービスを提供している。「第2世代のMediaFLOチップのサンプル出荷も開発した。ワンセグの機能も包含してワンチップ化したもので、日本の携帯端末メーカーが、ワンセグ/MediaFLO両対応の端末を作る土壌が整った」(前田部長)という。
サービス面に関しては、メディアフロージャパン企画は「ワンセグとは競合しない有料課金型のコンテンツを提供する。ユーザー調査によると、最低20チャネル以上は欲しいという声が多い。こうした要望に応えたい」(増田和彦社長)と語った。ワンセグと同じリアルタイム型のストリーミングサービスに加えて、蓄積型のクリップキャストと呼ぶサービスやIPデータキャスティングと呼ぶサービスも提供して付加価値を高めるとする。クリップキャストとは、あらかじめ好みなどに応じて番組データをバックグラウンドでダウンロードしておき、好きなタイミングで視聴できる。auが提供している「EZチャンネル」に近いが、MediaFLOの方が送信効率が高いため、より多彩な番組を携帯電話に届けることが可能になる。また、ユーザー認証も可能なため、視聴した番組に対してだけ課金できる。一方のIPデータキャスティングは、いわゆるデータ放送。こちらも現在のauの「EZニュースフラッシュ」でニュースや天気予報などの配信で実現済みだが、MediaFLOにより配信のリアルタイム性が高まるという。
もう1社のモバイルメディア企画の矢吹雅彦社長は、「イメージとしては次の電車が来るまでの5分で見られる番組の提供」とした。帯域を細割りにしてコンテンツ事業者に卸売りするビジネスモデルを考えているとし、要望があれば個人でも帯域を購入して番組を提供できるようにしたいと語った。
ワイヤレスジャパンの会場では、クアルコム ジャパンが昨年同様、自社ブース内に実機に触って来場者がMediFLOサービスを体験できるコーナーを用意している。MediaFLOの送出環境をブースに再現し、ストリーミング、IPデータキャスティングのサンプル番組を放送している。
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