米Microsoftの幹部たちに「同社の事業基盤が従来型ソフトウエアからWebベース・サービスへ転換しつつある」と認めさせることは,米国のブッシュ大統領にイラクからの撤退スケジュールを明言させるようなものだ。ところが7月第2週,初めて沈黙が破られた。口を開いたのは,ブッシュ大統領でなくMicrosoftだ。

 Microsoftは,かつて敏捷さと顧客中心主義で世界トップ・クラスの企業だったが,このところ厳しい状況に置かれている。確かに売上高と収益の面でまだまだ優れているものの,「Windows」「Office」「Windows Server」といった古くさい収入源が,いまだに唯一の収入源である。それに対し,Microsoftのインターネット・サービス,ゲーム,モバイル機器,メディア・プレーヤーなどの事業は,巨額の損失にあえぎ続け,市場シェアを失ってきた。Microsoftは10年前,インターネットへ移行するという変化を見誤り,いろいろと酷評された。現在の状況は,その当時と似通っている。Webサービス・ベースのソリューションを使う消費者が次第に増えているのに対し,Microsoftは結局Windows/Office/Windows Serverとつながりのあるサービスしか提供していないのだ。

 しかし,状況はついに変わった。Microsoftは7月第2週に開催したパートナ向け会議Worldwide Partner Conferenceで,従来型ソフトウエア製品と事実上競合する可能性のあるインターネット・サービス・ソフトウエア・ソリューション(「クラウド・コンピューティング」)に取り組んでいることを,とうとう初めて認めた。MicrosoftのCTOであるKevin Turner氏は同会議の基調講演で「さあ,これが今まさに起きつつあることだ。ドアを作ってそこから外へ出て,チャンスを手にしなければならない。ソフトウエアとサービスを組み合わせる時代が迫っており,これが今すぐ必要なことである。これまで使われてきたクライアント・ベースのソフトウエアやローカル環境で動くソフトウエアが消えるわけではないものの,顧客は(従来型ソフトウエアとWebベース・サービスの)選択を望むようになる」と述べた。

 Microsoftの新計画によると,まず企業顧客向けに一連のソフトウエア・ソリューションを提供する。こうしたソリューションのなかには,顧客がよく知っているお気に入りのOfficeのような,単独のクライアント・ベースのソフトウエアも含まれる。ローカル環境向けアプリケーションとWebサービスのいいとこ取りをした,ソフトウエアとサービスのハイブリット製品もある。さらに,“インターネット・クラウド”内だけで動くものも出てくる。この新たな取り組みは,過去にMicrosoftが行ったことに対応する米Googleのアプリケーション戦略と,多くの共通点がある。

 インターネット・ベースのソリューションを提供するために,Microsoftは「Windows Live Core」という“クラウド・プラットフォーム”の開発を進めている。Windows Live CoreはWindowsおよびWindows Serverに加え,もう一つのWindowsベース(もしくはWindowsライク)なプラットフォームである「Windows Mobile」と連携する。MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏によると,Windows Live Coreをベースとする初のインフラ・サービスは,2007年の終わりにリリースする予定という。また,研究開発費を2007年の70億ドルから増やし,この新市場向けソリューションの拡充を図る。

 Ballmer氏はWorldwide Partner Conferenceの基調講演で,「当社はこれまでの2世代と同様,間違いなくコンピューティングとユーザー・インタフェース・モデルの次世代を推進していく」と語った。「選択肢は用意するが,当社の長期的な見通しで最優先項目はこの転換であるとだけ述べておこう。そして,当社の顧客にとっても,パートナにとっても,当然,当社自体にとっても,大成功を確信できるようになる」(Ballmer氏)。