写真●IT Japan 2007で講演するテルモの和地孝会長
写真●IT Japan 2007で講演するテルモの和地孝会長
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 医療機器メーカー大手のテルモの和地孝会長は7月11日,都内で開催中の「IT Japan 2007」で,「人を大切にして 人を動かす」と題して講演した(写真)。

 和地会長は1995年に社長に就任してからの11年間で,連結売上高を2.3倍の2764億円に,営業利益を3.2倍の585億円に引き上げた。90年代前半に3期連続で赤字を計上した同社にとっては,中興の祖ともいえる存在だ。講演では,「社員に危機感が薄かったことが危機だった。経営改革で重視したのは企業風土の改善にあった」と改革の要諦を指摘した。

 和地会長が社長に就任した当時,「指示待ち」の社員が多かったという。20年以上トップを務めた和地会長の2代前の超ワンマン社長が残した企業風土だった。「ワンマン経営が悪いわけではない。企業が成長する段階ではトップの強力なリーダーシップが必要な時期もある。しかし,いずれ限界が来るものだ。90年代前半のテルモはまさにそれだった」。

 そこで打ち出したのが,「人を軸とした経営」。社長就任翌年の96年に,和地氏自らが全社員を前にして「人はコストではなく,資産である」と宣言した。そのころのテルモでは,「いつ辞めようか」「辞めさせられてしまうかも」といったマイナス思考や不安を抱いたまま働いている社員が少なくなかったという。

 和地会長は,「従業員」や「社員」ではなく,「アソシエイト」という呼称を社内で使い始めた。アソシエイトには社員1人ひとりが主役であるという意味が込められている。さらに和地会長は,1年半をかけて,国内の工場や営業拠点で働いていた社員4200人全員を訪ね歩いた。全国を経営トップ自らが行脚して変革への意気込みを示したのだ。

 「指示待ち」体質を捨てさせるために,和地会長が2005年から自腹も切って始めたのが「現場の誇り賞」だ。多くの企業は,優秀な成績を残した社員を表彰する制度を持っている。一方で,人事評価の対象にはならないものの献身的に働く社員は少なくない。こうした社員を発掘して表彰しようという試みだ。

 「役員も人事部も本当に優秀な社員を知らないことは多い」と和地会長は語る。そこで,同僚社員からの他薦をもとに選ばれた社員を,和地会長自らが表彰する。これまでに金型技術者やコールセンターの担当者が選ばれている。

 最後に和地会長は,「人を動かすにはリーダー自身が変わらなければならない」と呼びかけた。それには志を持つことだという。「その志は,願望ではなく,強い決意でなければならない。一流を目指そうという決意がプライドを生み,周囲にも部下にも伝わる」と話し,講演を締めくくった。