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 「日本の社会全体が成熟化し、権威への依存、ブランド志向が高まるなど生活者の意識は保守化している。さらに消費行動については、情報に対する感度が高まっているものの、最適な商品を選ぶために情報を使いこなしている層と、それができていない層との二極化が進んでいる状況にある」。

 この発言は7月10日、東京都内で開催中の「IT Japan 2007」で講演した野村総合研究所(NRI)の藤沼彰久社長から出たもの(写真)。「変化への対応とITの果たす役割、生活者・企業環境・情報技術の未来予測と日本企業への提言」をテーマに日本社会の現状について述べた藤沼社長は、「社会・経営環境の変化に対応する重要な手段がITである」と明言する。

 藤沼社長は日本の社会・経営環境の変化について説明するため、NRIが独自で実施している「生活者1万人アンケート調査」の結果を用いた。例えば「今よりも少ない収入を前提として、今後の生活設計を立てている」と回答した比率は22.1%。「今後の生活設計をする上で、今以上の収入を前提にしている」との比率(20.6%)を上回る。「景気は良くなると見ている人は増えているが、個人の生活は苦しい状況にある」と藤沼社長はいう。

 さらに学歴志向が復活していることにも触れた。「有名な大学や学校に通った方が、将来有利になると思う」と答えた割合は55%。同様の質問に対する過去の調査結果よりも増えている。2000年が47%、2003が49%である。消費者行動については、「自分が気に入った付加価値には対価を支払う『プレミアム消費』型が増え、製品にこだわりがなく安ければよいとする『安さ納得消費』型が減っている」(藤沼社長)。

 ITの進化における注目点としては「Web2.0とモバイルの融合」を挙げ、「個人の行動履歴や活動状況に基づいた購買意欲を喚起することが可能になる」(藤沼社長)と述べた。

 さらに藤沼社長は、金融サービスやヘルスケア、流通サービスといった業界の抱える課題についても言及。金融サービス業の課題として「消費者は金融に関する情報に不足感を持っている」ことを挙げた。ヘルスケア業界の改革ポイントは、「医薬開発、製造・販売といったホールセール側と、病院や薬局、保険組合といったリテール側をITで“つなぐ”こと」(同)である。「流通サービス業の課題は労働生産性が、米国に比べて低く、その差が縮まらないこと。1社単独ではなく業界全体で産業構造を見直すべきだ」と指摘した。