NECの矢野社長。「今年は電子事業の黒字化を絶対にやり遂げる。昨年のてつは踏まない」と、力強い口調で目標必達を誓った
NECの矢野社長。「今年は電子事業の黒字化を絶対にやり遂げる。昨年のてつは踏まない」と、力強い口調で目標必達を誓った
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 NECは2007年7月10日、2007年度の経営方針説明会を開催した。代表取締役 執行役員社長の矢野薫氏は、2006年度未達に終わった電子事業の黒字回復について、2007年度の最重点課題として取り組む姿勢を強調した。経営指標としては、株主資本利益率(ROE)を「早急に8%とし、中期的には10%を目指す」とした。

 矢野氏は2006年4月に社長に就任。1年目だった2006年度の業績については「大変不本意な1年間だった」。電子事業の営業損益が期初予想より310億円と大幅な下方修正を余儀なくされたこと、情報通信事業でも会計方針の計上で260億円の下方修正をしたことを挙げ、「“双子の赤字”の影響で、飛躍のための基礎固めが実現できなかった」と振り返る。

 2006年度の電子事業の営業赤字は230億円。2007年度は同事業で30億円の営業黒字確保を目標として掲げる。同事業の中核企業であるNECエレクトロニクスで、600人分相当の技術外注費を削減するほか、設備投資の抑制や給与、賞与のカットなどで固定費を200億円削減する。また社内の部門数を従来の59から41へ削減し、併せて人員配置を見直すことで、個々の部門ごとの収益管理を徹底する。「受注残、受注高とも既に底を打ち、2006年度末から回復基調にある。足元の好調な受注を持続し、中期的な成長を実現していく」として、黒字化は可能との見方を示している。黒字化が達成できなかった場合の処遇については「そうした仮定は置かない」として明言を避けた。

「家電メーカーには作れないホームサーバー」を今秋発売

 一般消費者向け製品である携帯電話/パソコン事業についても、2006年度は335億円の営業赤字だったが、2007年度は60億円の営業黒字を目指す。「NECにとって携帯電話とパソコンは、一般消費者にNECのブランドを示せる数少ない製品。NECのブランドを維持するためにも絶対にやめない」として、同事業への意気込みを強調した。

 パソコンについては、品質の改善によりサポートや修理にかけるコストの削減を図る。製造現場でも、いわゆるトヨタ生産方式の導入などによる効率化を図り、製造コストや仕掛品在庫の削減に取り組む。また、従来のデスクトップパソコンやノートパソコンと一線を画す取り組みとして、ホームサーバーなどの新機軸の製品を、2007年秋をめどに投入する計画を示した。「NECにしかできない、家電メーカーには作れないようなホームサーバーにする」として、新たな収益源に育てていく考えを示した。

 携帯電話は、海外からの撤退が完了したことで2006年度下半期に黒字回復を果たした。2007年度は通期での黒字化を目指す。加えて、社外のデザイナー起用によるデザイン強化とユーザーインタフェースの改善などを進めている。「その結果として『FOMA N703iμ』のように超薄型で見た目も美しい端末を実現できた」として、既に業績回復の兆しが見え始めているとする。今後は、松下電器産業との共同出資会社であるアドコアテック製のベースバンドLSIなどを採用し、開発期間の短縮や開発コストの削減を目指していく。

 通信設備や企業向けの情報システムなどを扱う情報通信事業では、2006年度の1541億円の営業黒字に対し、2007年度は1740億円への上積みを狙う。国内外の通信事業者は、「NGN(next generation network)」と呼ばれる広帯域の通信網と、関連する情報システムの構築を進めている。特に、NTTが2007年度中にNGNの商用サービスに向けた設備投資を始めることから、NGN関連の売上高を2006年度の900億円から2007年度は一気に倍増させる計画だ。タイやインドネシアなどでもNGNへの関心が高まっているといい、海外でのNGN関連の受注獲得も目指していく。「企業内の通信網構築では、海外案件で米シスコシステムズの前に苦戦している。しかし情報と通信の融合領域は、米シスコシステムズや米IBMに負けない強みがある」と自信を示す。

いまだ続く、ナスダック上場廃止の危機

 NEC全体での2006年度の業績は、売上高が4兆6526億円、営業利益が700億円。これを2007年度は、売上高が4兆7000億円、営業利益が1300億円という水準に高める。また、今後はROEを重要な経営指標として注視していく姿勢を示した。「企業年金連合会が、企業への投資判断の基準としてROE8%以上を掲げた。国内最大の投資家であり影響力も大きいことから、まずはROE8%を早急に達成する。とはいえ、グローバルな市場で戦う企業としては、ROE15%を目指すことも必要。実際に15%を達成するのは厳しいが、中期的には2ケタ台のROEを狙いたい」とした。

 NECは、米国会計基準に基づく決算の公表が大幅に遅れており、米ナスダック市場における米国預託証券(ADR)の上場が廃止されるおそれがある。これについては、「情報システムの保守価格に関する客観的証拠(VSOE)の提出を求められている。VSOEの算出には、過去の取引の実態を基に適正価格を分析する必要があるが、この分析のために過去の案件を5年分以上調べる必要がある。古いデータでもあり、監査法人を満足させられるデータを集め切れていない」と説明。決算をまとめるための猶予期間は2007年4月に終了しているが、今のところナスダック側からのコンタクトはないという。同社では、引き続き決算報告をまとめる努力をしていくとするが、具体的な公表時期については「申し上げられない」とコメントした。