IT Japan 2007で講演するキヤノン電子の酒巻久社長
IT Japan 2007で講演するキヤノン電子の酒巻久社長
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 キヤノン常務から転じて、赤字スレスレだったキヤノン電子を立て直した酒巻久社長。1999年の社長就任から7年で売上高経常利益率を1.6%から14.1%に跳ね上げた。その秘訣について、7月10日、東京都千代田区のホテルニューオータニで開催中の「IT Japan 2007」で講演した。

 酒巻社長は就任当初、「10年間で20%の経常利益の出る会社にしよう」と社員に呼びかけた。世界で優良企業と呼ばれる企業の売上高経常利益率が15~20%であることから、この目標を定めた。

 酒巻社長は、こうした優良企業でも「7~10%前後のムダがある」と考えている。改革前のキヤノン電子に当てはめると、200億~300億円がムダだと算出。これらのムダを無くせば高収益企業に生まれ変わると考えた。社員の人員整理無しに目標を達成するためには、社員の意識改革を促すことが最大のポイント。そのために、「現場が自分で考える癖を付ける」ための仕組みが必要だったという。

 酒巻社長は自身が始めた「ピカ一(イチ)運動」を例に挙げて説明した。ピカ一運動とは全従業員に対して、「テーマは何でもいいから自分が世界一になる」ことを奨励した取り組み。自らテーマを考えて、実現のためのステップを自ら立てられるための訓練なのだ。

 人事考査には反映しないが、達成できた社員を表彰し、皆の前で褒める。賞状や副賞も出す。「達成すれば褒められる」場面をほかの社員が見て、自分も考えるようになる。これを繰り返すことで、社員に考える癖を身に付けさせてきた。「達成が容易なことから目標を決めさせて実行させる。成功体験を経験させて自信を付けさせることが狙いだった」と酒巻社長は明かす。

 ピカ一運動で表彰したテーマの1つに、パート社員が考えたものを紹介した。「始業時間が8時の工場で朝6時半に出社する」というものだった。

 不良品を出しやすい時間帯の1つが朝一番。同社は細かい部品が多いため、始業間際に駆け込んできて、集中力が無いまま作業しては不良品を発生させてしまう。そこで、早く出社して準備を整えて取り組むことで不良率が改善したという。これを考えたパート社員には賞状と副賞を贈った。

 また酒巻社長は、改革を進めるうえで重要なのは、「末端の社員までが理解できるビジョン」だと話した。目標はできるだけ数値化し、重要な順から個条書きにすべきだという。

 今回も改革に取り組むに当たり、社員全員に会社のありたい姿を書いてもらったという。「全員が参加してビジョンを作り上げることで、価値観を共有できた」と話す。

 「自主性を重んじることが重要で、改革する時には従来の延長線上ではない全く違うやり方が必要。社員に考える癖が身に付けばムダもなくなり、利益が出せる体質になる」と、講演を締めくくった。