写真1●ソフトバンクモバイルの宮川潤一取締役専務執行役CTO
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 ソフトバンク・グループは7月2日,6月29日から開始した超小型の携帯電話基地局「フェムトセル」の実証実験(関連記事)を報道陣向けに公開した。

 フェムトセルとは,家庭やオフィス内に設置する超小型の携帯電話基地局のこと。各家庭で契約しているブロードバンド回線にフェムトセルのアクセス・ポイント(AP)を接続し,通常の携帯電話機を使って,家の中からはブロードバンド回線経由で携帯電話を利用できるようにする技術だ。外出時には携帯電話基地局経由で通信できるため,いわゆるFMC(fixed mobile convergence)サービスを実現できる新技術として,世界中のベンダーが対応製品を準備中。2008年にかけて,商用化が始まると見込まれている。

 ソフトバンクモバイル(SBM)の宮川潤一取締役専務執行役CTO(写真1)は「フェムトセルは,我々が1.7GHzの周波数帯取得を目指していたころから進めてきた取り組み。技術的に実用化が見えてきたのでそろそろ公にしていいのではと判断した」と語り,デモを交えながら同社が目指すサービス像について説明した。

 宮川CTOはフェムトセルがユーザーにもたらすメリットとして,(1)屋内のカバレッジの改善,(2)屋内での高速通信への対応,(3)フェムトセルのホームサーバー化による新サービスの実現──の3点を挙げた。

 (1)の屋内カバレッジについては,「SBMが使う2GHz帯の周波数帯は,なかなか家の中には浸透しづらい特性を持つ。屋内に基地局を作ることでカバレッジを改善できる」(宮川CTO)と語る。(2)の高速通信への対応は,「屋外の基地局を複数のユーザーで帯域をシェアすると,どうしても速度が下がってしまう。屋内にフェムトセルのAPを設置すれば,ユーザーはそのAPを独占でき,理論値に近い高速通信を利用できるようになる」(同)と説明した。同社の総トラフィック量の約8割は,屋内からのものが占めているという。宮川CTOは,フェムトセルで屋内に基地局を作ることの効果の高さも強調した。

 
写真2●フェムトセルのAPをホームサーバー化し,新サービスを実現
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 また(3)のフェムトセルのホームサーバー化については,「フェムトセルのAPや無線LAN AP機能などを一体化した機器を作り,DLNAなどを使って家庭内のさまざまなデジタル機器を接続するような形を実現したい」(同)と語る(写真2)。宮川CTOは,これによりユーザーの生活に密着した新しいサービスが提供できるようになるとした。「かつてYahoo! BBのモデムを配布したときも同じことを実現したかったが,当時はコスト的に難しかった。せっかく家庭内に機器を置くのだから,今度こそは実現したい」と,意欲を語った。

 なお同社の実証実験は2007年6月から12月にかけて実施する予定。フェムトセルのAPを接続するブロードバンド回線には,Yahoo! BB ADSLサービスやYahoo! BB 光サービスを利用する。さらに宮川CTOは,「いずれはNTTのBフレッツとも接続したい」との考えを示した。当初の実験では,実験用端末は最大12台だが,実験後期には「数万の端末やAPを使った実証実験を進めたい」(宮川CTO)としている。

商用化の時期は来春,しかし「フェムトセルの実現には法律改正が必要」

 
写真3●ソフトバンクの実証実験に参加するベンダーのフェムトセルAP。左からそれぞれ,英アイピー・アクセス,モトローラ,英ユビキシス,日本アルカテル・ルーセントのフェムトセルAP
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写真4●左からそれぞれ,日本エリクソン,サムスン電子,日本ソナス・ネットワークス,NECのフェムトセルAP
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 フェムトセルを使ったサービスの商用化の時期については,宮川CTOは「来春を目指す」とした。まずはHSDPA(high speed downlink packet access)の3.6Mビット/秒対応APから出荷し,チップの価格が安くなってきたらHSDPA 7.2Mビット/秒対応版を出すとの考えを明らかにした。

 ただし現行の制度では,フェムトセルを接続する回線にユーザー回線を使えなかったり,フェムトセルのAPに無停電電源装置の設置を義務付けられるなど,まだまだ課題も残っていると指摘。「フェムトセルの実現には法律改正が必須。既に総務省と話し合いを進めており,総務省も好意的に捉えてくれている」(宮川CTO)と語った。

 フェムトセルのAPの価格については,「当初はユーザーにお願いして置いてもらう形になるのでは。となると無料で配布する形が望ましい」(宮川CTO)とした。またフェムトセル経由の通信を無料にする可能性があるかどうかについては,「音声はホワイトプランがあるので既にタダのようなもの。データ通信については,ユーザーのARPU(1加入者当たりの月間平均収入)次第で検討していきたい」(宮川CTO)と答えるにとどめた。

 
写真5●モトローラのデモ。フェムトセルのAP経由でテレビ電話をしている様子を披露
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 なお会場内では,ソフトバンクの実証実験に協力するベンダー8社が一同に介して,積極的に自社の製品をアピールしていた(写真3写真4)。英アイピー・アクセスと英ユビキシス,モトローラの3社は,実際にソフトバンクモバイルの携帯電話を使ってフェムトセルAP経由でテレビ電話をする様子などを披露した(写真5写真7)。

 8社ものベンダーがかかわっている理由について,宮川CTOは「ソフトバンクがやりたいことが本当にできるかどうか検討してもらうため」と説明する。現状では,ベンダーによって携帯電話のコア・ネットワークと接続する方法はまちまちだ。ソフトバンクでは,モデムから後ろはすべてIPで接続し,音声はSIP(session initiation protocol)を使って制御する形を考えているという。しかしそれは,「世界的に見ても厳しい要求で,この中の何社かからはそのようなネットワーク構成は難しいと言われている」(宮川CTO)。それでも宮川CTOは,「IPにこだわってきたソフトバンクならではのサービスの形を実現し,フェムトセルをリードする存在になりたい」と改めて強調した。

 
写真6●英ユビキシスのデモ。同じくフェムトセルのAP経由でテレビ電話している様子を披露した
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  写真7●英アイピー・アクセスのデモ。フェムトセルのAPをブロードバンド回線につなぐだけで利用環境が整う,管理系のシステムもアピールしていた
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