経済産業省は6月29日,「情報システムに係る相互運用性フレームワーク」を公開した。2007年3月に総務省が公開し,2007年7月に発効する「情報システムに係る政府調達の基本指針」の実践的なガイドとして経産省が整備したもの。政府が調達する情報システムに関して,相互運用性の欠如により起こりうる問題の具体的な例,「特定事業者の独自技術ではなく,オープンな標準を活用して実現されていることが望ましい」という方針などが記述されている。

 経済産業省では2007年5月に草案を公表しパブリックコメントを募集していた(関連記事)。寄せられた意見を反映し正式版として公開した。

 正式版のガイドラインでは,相互運用性の欠如により起こりうる問題として,案には記述されていなかった以下のような具体的な例を盛り込んでいる。

  • 電子申請システムを構築するにあたり,A省は利用者PCにアプリケーションを導入する方法を採り,B省とC省はJava アプレットをダウンロードして使用する方式を採った。A省のアプリケーションが動作するOSのバージョンとB省・C省が前提とするOSのバージョンが異なるため,電子申請システムのアクセスが同時に利用できないという問題が起きた。さらに,B省とC省が前提とするJava 仮想マシンのバージョンが異なるため,利用者のWebブラウザによっては正しく動作しない利用者PCができてしまった。

  • D 省で開発した文書管理システムをE省で流用開発しようとした。D省のシステムは .NET で構築されていたが,E 省では複数の業務を共通のサーバーの上に乗せており,J2EE で構築されていたためアプリケーションの省をまたがっての移植が困難となり,新規に文書管理システムを開発することになった。

  • F省で開発した人事管理システムはG社のデータベースをG社のハードウエアとOSの上で使っていた。今度F省とH省が一つになることが決まったためF省の人事管理システムをより処理速度の高いH省のコンピュータ上で動かすことを検討したが,G社のデータベースはG社のOSの上でしか動作しないため,H省のコンピュータ上に移植することはできなかった。そのためG社のデータベースの替わりにH省のコンピュータ上で動作するJ社のデータベースを使用することも検討したが,F省の人事管理システムはG社のデータベースの独自機能を使用していたためJ社のデータベース上に移植することもできなかった。

  • L市が使用しているK社のワードプロセッサの新版が発売され,それに伴って2年後に旧版のサポートが打ち切られるとの報道がなされた。L市ではワードプロセッサのアップデートを行うか,より安価な別のワードプロセッサに乗り換えるかの選択をせまられたが,市の予算では,市職員すべてのPCに入っているワードプロセッサのアップデートを行ことができないことが判明した。しかしながらL市では既に多くの電子文書がK社のワードプロセッサ独自のフォーマットで蓄積されていたため,K社のワードプロセッサと互換性のないワードプロセッサに乗り換えることができなかった。そのため,L市では来年度予算としてワードプロセッサのアップグレードのための予算を計上し,今後K社の製品計画に合わせてアップグレードのための予算を計上し続けることになった。
     文書データを製品独自のフォーマットに加えてオープンな標準のファーマットに変換して保存しておかなかった,および製品独自のフォーマットをオープンな標準のフォーマットに変換する手段が無かったために,特定のベンダーの技術へのロックインを引き起こしてしまった。

 「情報システムに係る政府調達の基本指針」は,5億円以上の大規模システムは原則として分離して調達することを定めている。フレームワーク案では,分離調達を行うためにはサブシステムおよびそれを構成する部品間での相互運用性の確保が不可欠であるとし「特定事業者の独自技術を前提としたものではなく,多くの事業者が実装および採用可能なオープンな標準を活用して実現されていることが望ましい」としている。

 そのための具体的な記述例として,CIO補佐官連絡会議資料を引いて「最新の『Microsoft Windows XP Professional』と同等以上」,「『Solaris 7』と同等以上」,「『RedHat Enterprise Linux』」,「最新の『ジャストシステム一太郎』と同等以上」や「最新の「Microsoft Word」と同等以上」などを商標名を使用した望ましくない要求要件例として,「マルチユーザー,マルチタスク,TCP/IP ベースのネットワーク機能およびグラフィカルユーザーインタフェースを持つパーソナルコンピュータ用のオペレーティングシステム」,「POSIX 規格に準拠したオペレーティングシステム」,「LSB 標準に準拠したオペレーティングシステム」,「日本語文書処理が可能なワードプロセッサソフトウエアで,罫線機能を持つもの」,「OASIS 公開文書形式標準に準拠した文書の読み込み,編集,印刷および書き出しが可能な日本語ワードプロセッサソフトウエア」などを中立性確保のための記述例として挙げている。

 ガイドラインでは「本書は主として政府を含む政府公共機関での利用を意図して作成されているが,民間の情報システムの構築にも応用できるように書かれている」としている。

◎関連資料
「情報システムに係る相互運用性フレームワーク」の公表について(経産省)