米CAでBSO(ビジネス・サービス最適化)担当ITサービス・マネジメント&ITガバナンス・エバンジェリストを務めるRobert Stroud氏
米CAでBSO(ビジネス・サービス最適化)担当ITサービス・マネジメント&ITガバナンス・エバンジェリストを務めるRobert Stroud氏
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 6月29日,運用管理ソフト大手の米CAでITIL(IT Infrastructure Library)関連のエバンジェリストを務めるRobert Stroud氏が来日,ITILのポイントを語った。運用管理のベスト・プラクティスを記した書籍「ITIL」の新版「V3」は,この5月30日に出荷されたばかりである。CAはITILの著者であるBrian Johnson氏を,ITIL実践マネージャとして擁している。

---Robert Stroud氏: V2があるのにV3が生まれた理由について,まず説明しよう。IT業界の25年間を振り返ってみると,業務の中でのITの使われ方,ITの意味合いが変わってきたことが分かる。ITは従来,業務の自動化と情報化を担うものだった。この時代は,業務とITをすり合わせることで済んできた。一方,現在ではITが関与しない業務など無い。ITを業務の中に統合しなければならないのだ。

 ITIL V2は,ユーザーが業務システムの運用を,構成管理やインシデント管理など個々のプロセスとして捉えることに成功した。V3ではこれを一歩進めて,ITILがその概念として持っている,一種のゴールとしての運用のライフサイクル化を促進できるものと考えている。ライフサイクル化の実現に向けて,ITIL V3では,コアとなるITILの書籍に加えてITILを補完する関連書籍を出版するほか,Webサイトを使った情報提供サービスもオープンさせる。

 ITIL V3はITIL V2と相反するものではない。V2のすべてはV3に含まれているからだ。V3に含まれるV2の要素は,書籍としての実装,つまり,どの書籍で何を語るか,語り方をどうするか,だけが異なっている。V3はV2を否定するものではない。

 例を示そう。ITIL V2の書籍『Service Support』(通称:青本)で示されたプロセス「Change Management」(変更管理)は,ITIL V3の書籍『Service Transition』にマッピングされており,プロセス「Incident Management」(インシデント管理)は,V3の書籍では『Service Operation』にマッピングされる。また,ITIL V2の書籍『Service Delivery』(通称:赤本)で示されたプロセス「Financial Management」(財務管理)はITIL V3の書籍『Service Strategies』にマッピングされ,プロセス「Capacity Management」(キャパシティ管理)は,ITIL V3の書籍『Service Design』にマッピングされている。

 ITIL V3を構成する個々の書籍を,以下で簡単に説明しよう。

 (1)『Service Strategies』は,事業戦略をどう打ち立てればよいのか,どういった財務モデルを持つべきか,などを記述しており,組織構造のガイドラインが含まれている。

 (2)『Service Design』は,提供するサービスがどのようなものかを定義すること,つまり設計について書かれており,アウトプットとして「SDP」(Service Design Package)を作成する。情報セキュリティ管理もこの書籍の範ちゅうである。

 (3)『Service Transition』は,Service Designによって得られたSDPを用いて,ビルド,テスト,実装への反映,仕様変更といったライフサイクルをカバーする。構成管理,変更管理,資産管理,知識共有(KM)などを含む。

 (4)『Service Operation』は,実運用のロジックを集約している。V3で特徴的なところは,業務に与えるインパクトとなり得る問題,すなわちインシデントの管理を,情報システムのアラートや業務のルーチン上発生する物理的なインシデントを処理するイベント管理と,ユーザーが自己解決可能な要求の管理に分割した点だ。

 ITILのV2において,これらの2つはともに共通のインシデントとして捉えていたが,ユーザー企業の運用プロセスとは異なっているという声があった。新しいラップトップが欲しいといったユーザーの要求は,Webシステムへの要求登録と,それに応じた調達などで自己解決させる。一方のイベント管理では,情報システムの様々なイベントを捉え,イベントが業務に与えるインパクトを予測して行動する。

 (5)『Continual Service Improvement』は,ITILの目的とも言えるPDCA(Plan,Do,Check,Action)のライフサイクルを回す方法,つまり継続的なサービス改善の方法について語ったものだ。ITILはPDCAの概念を備えているが,現実にITILを運用するユーザーの多くは,V2を構成するうちの2冊の書籍,『Service Support』(青本)と『Service Delivery』(赤本)しか使っていないという状況がある。この状況を踏まえた上で,ITIL全体の書籍構成を変更するとともに,PDCAのための書籍を独立させたのだ。

 V3としてITILを補完する関連書籍は,ITIL本体よりももっと詳細なガイドラインとなる。特定の産業に特化した実装も含まれてくる。このように,ITIL V3は,ITIL V2が切り開いた運用プロセスの最適化をベースに,企業組織体を次のレベルにまで引き上げる手助けとなる。(談)