写真●米サイビームのジョン・E・レモンチェック社長兼CEO
写真●米サイビームのジョン・E・レモンチェック社長兼CEO
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 米国の無線半導体ベンチャーであるサイビームは6月27日,最大4Gビット/秒の通信速度を実現する無線技術「WirelessHD」の進ちょく状況を説明した。WirelessHDは,免許不要の60GHz帯の周波数を利用し,到達距離は短いながら高速な通信速度を得ることを目的としている。10メートル程度の距離では,最大4Gビット/秒の伝送速度を得られる。具体的な用途として,「テレビとHDDプレーヤの間で,無圧縮のHD(high definition)動画を伝送できる」(米サイビームのジョン・E・レモンチェック社長兼CEO,写真)と説明する。

 WirelessHDは,サイビームが中心となって設立した業界団体「WirelessHD」で策定している業界標準規格である。今夏にも仕様を決定する予定だ。この業界団体には,サイビームのほかに松下電器産業,NEC,ソニー,東芝,韓国サムスン電子,韓国LG電子が参加している。基本的な特許はサイビームが取得しており,「WirelessHDの参加企業には,妥当なライセンス契約で提供する」(レモンチェック社長兼CEO)という。

 60GHz帯の電波は,光に近い特性を持ち直進性が高い。しかし,屋内でのHD動画伝送に利用となると,家庭のリビングなど障害物の多いところで使えないと困る。そこでWirelessHDでは,複数のアンテナを利用して電波を送る方向を変えられる「アレイ・アンテナ技術」を採用することでこの問題を回避する。

 アレイ・アンテナ技術は,アンテナに供給する電力をアンテナ素子ごとに変化させることで,電波を送信する方向を変える。「テレビとHDDプレーヤの間に障害物がある場合は,壁や天井に反射させる経路などを使って電波を送る。リアルタイムに伝播状況を検知しているので,人がリビングを歩き回ってそれまで使っていた経路が遮断されても問題は起こらない」(レモンチェック社長兼CEO)。

 サイビームは,WirelessHDの実装技術を「OMNILINK60」と呼ぶブランドで展開。第1号の製品として,高品位のオーディオと動画を伝送するためのチップセットを発売するという。製品の詳細と発売時期は「3~4カ月以内に発表する」(レモンチェック社長兼CEO)とした。

 レモンチェック社長兼CEOによると,WirelessHDが国際標準として採択されることを狙っており,ミリ波帯WPAN(wireless personal area network)規格「IEEE 802.15.3c」と協調もしているという。ただし,競合技術の存在やWirelessHDが国際標準規格に採択される可能性については「現時点で話すのは時期尚早」とした。