写真1●英ピコチップ・デザインのギアム・デサティエCEO
[画像のクリックで拡大表示]

 フェムトセルの代表的なチップメーカーである英ピコチップ・デザインのギアム・デサティエCEO(写真1)は6月27日,半導体関係の商社であるPALTEK主催の説明会のために来日。同時に,公の場としては国内で初めてフェムトセルのデモを実施した。

 デモでは2台のノキア製W-CDMA端末「Nokia 6680」とパソコンに装着したHSDPAカードを,同社のチップセットを使ったフェムトセルのアクセス・ポイント(AP)に接続(写真2~5)。端末同士でフェムトセルのAPを経由してテレビ電話をしたり,パソコンに対して映像配信する様子などを披露した。フェムトセルのAPのバックボーンは,携帯電話のコア・ネットワーク機能をシミュレートしたパソコンとLAN経由で接続する構成を取っていた。

 なお本来であればW-CDMAやHSDPAの電波を使ってAPに接続するが,電波を使うためには総務省による許可が必要なため,デモでは有線のRFケーブルを使って端末とAPを接続した。また端末のU-SIMカードは,デモ用のフェムトセルAPに接続するようにピコチップがモディファイしたタイプを利用していた。

 今回のデモで同社が特に強調していたのが,端末側に特別な装置やソフトが不要な点だ。例えはパソコンに装着したHSDPAカードをフェムトセルのAPに接続するには,通常パソコン上で利用しているモデムソフトだけで対応できる。

「日本の状況は欧米と比べて少し遅れ気味」

 ピコチップのデサティエCEOは,フェムトセルの商用化に向けた動きについても言及した。「多くの欧米の通信事業者がフェムトセルのサービス開始を決定し,2007年の第2四半期に入って実際にRFP(提案依頼書)を出す事業者も現れてきている」(デサティエCEO)と語る。2007年の第3四半期には,各事業者がフィールド・トライアルを実施し,2008年の第1四半期には商用サービスがスタートするのではという見通しも示した。

 一方で日本の状況については,「動きの速い欧米の事業者と比べて,日本ではフェムトセルの検討が遅れているように見える」(同)との見方を示す。同社は日本市場には,WiMAXのチップベンダーとして数年前から参入済みだが,フェムトセルについてはまだこれから。デサティエCEOは「NECがフェムトセル市場に参入したり(関連記事),ソフトバンクがフェムトセルの導入を検討するなど,日本でも実現に向けて少しずつ取り組みが進みはじめている。(フェムトセルの製品化を目指す)ベンダーとの具体的な話もこれから増えてくるだろう。日本でもぜひフェムトセルを実現したい」と,日本市場に向けた意気込みを示した。

 フェムトセルとは,GSMやW-CDMAの携帯電話の基地局(AP)を小型化,低価格化することで,一般ユーザーでも導入可能にするシステムのこと(関連記事)。ユーザー宅のブロードバンド回線にフェムトセルのAPを接続し,ブロードバンド経由で携帯電話網につなぐ。これにより,既存の携帯電話を使って,家の中では固定回線経由で,外出時には携帯電話として通信するFMC(fixed mobile convergence)サービスが実現できる。サービスの内容によっては,固定回線経由の携帯電話の通話料を抑えられる可能性もある。

 PALTEKの高橋忠仁社長も,「フェムトセルはワイヤレス・ブロードバンドの世界を大きく変革する可能性を持った,まったく新しい技術」と語る。

 英ピコチップは,W-CDMAやHSPAに対応したフェムトセルのAP用のリファレンス・ボードや評価ボードを出荷しているベンダー。同社のボードはスウェーデンのエリクソンや英ユビキシス,英アイピー・アクセスなどフェムトセルにかかわる多くのベンダーが採用している。ピコチップのデサティエCEOは,「フェムトセルのコンセプトは我々が約2年前に発明した。我々のチップによって,ワンチップで超小型の基地局を作れるようになった。価格面でも,来年初頭には150ドルまで価格を下げられるだろう」と語る。


写真2●デモに使用したフェムトセルのAP。ピコチップのフェムトセル用チップ「PC205」を使用している。W-CDMAの電波を無断で利用できないため,今回のデモではRFケーブル(写真左上の細いケーブル)で各端末と接続していた
[画像のクリックで拡大表示]

写真3●フェムトセルのAPはルーターを経由して,携帯電話のコア・ネットワークをシミュレートしたパソコンに接続
[画像のクリックで拡大表示]

写真4●フェムトセルのAP経由で端末同士でテレビ電話をしている様子
[画像のクリックで拡大表示]

写真5●HSDPAカードを搭載したパソコン上で,フェムトセルのAP経由して映像を受信している様子。HSDPAの能力を示すため,768kビット/秒の帯域を使った映像を配信した
[画像のクリックで拡大表示]