公開したWINDS。一部は黒い断熱材で覆われている。太陽電池は折りたたんだ状態になっている。打ち上げ後に6本のボルトを火薬で取り外すと、自動的に電池パネルが広がる仕組みとなっている
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WINDSのイメージ画像。白い丸い部分がマルチビームアンテナ。提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
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廊下の奥に見える丸いドアの中が宇宙と同じ真空環境を作り出すスペースチェンバー。大きな衛星を移動できるように、天井は20m近くもある
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茨城県つくば市の筑波宇宙センター。H-IIロケットの模型がある
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 万が一の災害時でも、ITとは無縁の離島でも高速インターネットが使えます。将来の快適な通信環境を目指す実験用のインターネット衛星「WINDS」が2008年初頭、宇宙空間に打ち上げられる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2007年6月26日、茨城県の筑波宇宙センターで打ち上げ前のテストを繰り返している最中の「WINDS」を公開した。

 「WINDS」プロジェクトの目的は静止衛星を使った高速通信技術を確立し、さまざまな実証実験に利用すること。現状ではあくまでも実験用の衛星だが、将来的に実用化できれば災害に強く、地域格差のない通信ネットワークが実現できる。例えば、地震などで大都市間のインターネットのバックボーンが途切れたときに、回線の代替として衛星の通信環境を利用できる。離島などで衛星経由の高速インターネットが利用できるようになれば、地域のデジタルデバイドも解消する。

 WINDSは2008年1~2月にかけて種子島の宇宙センターからH-IIAロケットで打ち上げられ、その後5年の運用を目指す。衛星本体のサイズは幅2×奥行き3×高さ8m。太陽電池のパネルを含めると全幅は21.5mとなる。通信速度は、基地局に直径5mのパラボラアンテナを設置した場合で最大1.2Gbps。「5m級のアンテナで1.2Gbpsは世界最高速」(JAXA 宇宙利用推進本部 WINDSプロジェクトチーム 中村 安雄プロジェクトマネージャ)だという。個人向けを想定した45cmのアンテナを使った場合は155Mbpsとなる。

 通信には20G~30GHzと高周波数のKa帯を使う。電波は衛星の上部に2つ備えたマルチビームアンテナから発信する。一つ目のアンテナは日本各地と韓国や中国の一部都市。二つ目のアンテナは香港、マニラ、バンコクなどアジアの各都市をカバーする。ただ、高周波数の電波は降雨時に減衰しやすいという弱点がある。そこで、各地域に送信する電波の強度を調節するマルチポートアンプを搭載している。例えば大阪が雨、東京が晴天という場合に大阪地域の出力を上げ、東京地域の出力を下げるといった調整ができる。

 マルチビームアンテナでは通信できる範囲を日本国内や一部の都市に固定しているが、それ以外の地域でも通信できるようにするためのアクティブフェーズドアレイアンテナ(APAA)も搭載している。電波を送信する位置を細かく制御できる仕組みになっており、アジア太平洋地域を広くカバーする。ただ、マルチビームアンテナと比べてAPAAは利得が低いため、地球の基地局ではより大きなアンテナが必要になる。

 衛星内にはスイッチングルーターの役割をする交換機を搭載している。交換機内で電波の復調や復号をして、スイッチングをした上で電波を送信できる。従来は、衛星に届いた電波はそのまますべての基地局に送信されていたが、WINDSではアップリンクされた電波を解析して、必要な情報を必要な場所に送信する。伝送効率が向上するほか、電力も有効に利用できるという。

 現在は、宇宙と同じ真空環境を作り出すスペースチェンバーに衛星を入れて、正常に動作するかを確認するといったテストを繰り返している。テストが完了すれば、衛星は船で種子島宇宙センターに運ばれ、打ち上げの準備に入る。

 JAXAはWINDSに付ける愛称を公募している。応募の条件は「ひらがなかカタカナであること」「衛星の内容をイメージできること」「発音しやすいこと」など。募集期間は8月26日まで。