「（自身が経営を担っていた）ダイエーでは，長い間IT投資を凍結していた。そのため競合他社に追い付こうと思っても，大きなハンディキャップを背負っていた。ITには継続的に投資をしないと，取り返しのつかないことになる」－－マイクロソフトの樋口泰行代表執行役兼COO（写真）は6月25日，「マイクロソフト・マネジメント・セキュリティ・カンファレンス」の基調講演で，ダイエーの「経験談」をこう語った。
2003年5月から日本ヒューレット・パッカードの社長を務めていた樋口氏は，2005年にダイエーの社長に転身。およそ2年間，ダイエーの経営再建に取り組んだ。樋口氏は「IT業界を離れ，『ユーザー企業』に身を置くことで，見えてきたものがある」と語る。それが「ユーザー企業におけるITへの依存度の高さ」だ。樋口氏は「企業におけるITの導入は，人手をコンピュータに置き換えることから始まった。それが今や，ITは企業のサービスそのものを消費者に提供するという大きな役割を担うようになった。ITが止まると，企業のサービスそのものが止まってしまうほど，依存度が高まっている」と語る。
その一方で，「ITへの投資競争」も激しさを増す一方だ。流通業界では電子マネーへの対応なども進んでいるが，「（長い間IT投資が凍結されていた）ダイエーは，すぐに電子マネーに対応できる体制ではなかった」（樋口氏）と振り返る。資金的な問題だけでなく，システム部門におけるスキルの低下や，最新IT技術を全社展開するうえでの従業員教育などが，競合他社に追い付くうえでの足かせになったという。樋口氏は「ダイエーの社長時代は，新規POSレジの導入や，システム全般に関して，IT投資の加速に取り組んだ」と振り返る。
ITの重要度が高まる一方で，「いまだにITを軽視している経営者もいる」（樋口氏）のが現実だ。樋口氏は2007年3月にマイクロソフトのCOOに就任して以来，ユーザー企業とパートナー企業，合わせて130社を訪問してきたが，「ITのことはよくわからない」という経営者にも出会ったという。樋口氏は「経営者がITに関心のない会社ほど，内部のITはグチャグチャになっている」と強調する。
樋口氏は企業が解決すべき当面のITの課題として，「セキュリティの確保」と「システム管理の効率化」を挙げる。「製品の導入という観点だけではなく，運用のプロセスや，ユーザーの行動も最適化していくことで，システム管理の合理化を実現して行かなくてはならない」と樋口氏。マイクロソフトは現在，セキュリティ管理製品群を「Forefront」，システム管理製品群を「System Center」というブランド名で展開している。これらの製品によって，「セキュリティ上の脅威への迅速な対応や，ITの統制，システム管理の自動化などが可能になる」（樋口氏）と強調した。
樋口氏はまた基調講演で，ForefrontとSystem Centerの新製品を発表した。同社は企業向けのクライアント用セキュリティ対策ソフト「Forefront Client Security 2007」を7月2日に，中小企業向けの統合システム管理ソフト「System Center Essentials 2007」を8月1日に発売する。
Forefront Client Securityは，「Forefrontブランド」のセキュリティ製品の中核となる製品で，ウイルス対策機能やスパイウエア対策機能を統合したセキュリティ対策ソフト。1ユーザー当たり月額68～209円という低価格で，競合の多いセキュリティ対策ソフトウエア市場に殴り込みをかける。
System Center Essentials 2007は，同社の大企業向けのクライアント管理ソフト「Systems Management Server」とサーバー管理ソフト「System Center Operations Manager」の機能や，パッチ配布ソフト「Windows Server Update Services（WSUS）」の機能を中小企業向けに統合したソフト。クライアント管理ライセンスは5台分で1万8800円，サーバー管理ライセンスは1台分で1万8800円であり，大企業向けのシステム管理ソフトと比べて，価格を大幅に抑えている（System Center Essentials Server本体のライセンスは29万9000円）。
樋口氏は，「マイクロソフトのCOOに就任して，『マイクロソフトは会社の知名度は高いが，顔が見えない』という指摘を受ける。顧客にとっては親身な存在に，またパートナー企業にとっては一緒に働きやすい企業になれるよう，努力していく」と意気込みを語り，基調講演を締めくくった。
