企業が仮想化サーバー技術を導入する際には,何が障壁になるのだろうか。信頼性か,パフォーマンスか,それともソフトウエア・ライセンスか---。PCサーバー用の仮想サーバー技術のベンダーであるヴイエムウェア,米XenSourceの製品を取り扱う伊藤忠テクノソリューションズ(CTC),マイクロソフトの3社が,開催中の「Interop Tokyo」でパネルディスカッションを行った。

 Interop Tokyoのパネルディスカッション「仮想サーバーのオープン化とコストダウン手法」は,「ユーザー」の立場である独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)グリッド研究センターの伊藤智氏と,「PCサーバーよりも数十年早く,メインフレームにおいて仮想化技術の導入を済ませた」立場である日本IBMシステムズ・エンジニアリングの濱田正彦氏が司会役になって,議論が進められた。

PCサーバーの仮想化技術は,あと1~2年でメインフレーム並みに

 まずは日本IBMシステムズ・エンジニアリングの濱田氏が,仮想化技術の歴史を説明した。IBMがシステムの仮想化に取り組み始めたのは,1970年代にさかのぼる。仮想メモリー,ハードウエアの仮想化,サーバーの論理分割,仮想専用線,ストレージ仮想化,動的な論理分割--。メインフレームやUNIX(AIX)サーバーでは,仮想化技術は1990年代にはほぼ完成していた。PCサーバーで仮想化技術が使えるようになったのは,1990年代末に「VMware」が登場してからのこと。濱田氏は「仮想化技術の新潮流を追いかけている人たちは,メインフレームの歴史にも目を向けてほしい。今のPCサーバー向け仮想化技術に何が足りないのか,メインフレームの仮想化技術を見れば分かるからだ」と語る。

 それでも濱田氏は「IBMが30年間かけて完成させた仮想化技術の『20年分』は,PCサーバーでもこの3~4年間だけの進化で追いついてしまった。PCサーバー分野の仮想化技術は,あと1~2年で,IBMが30年かかった場所にまで到達するのではないか」と指摘する。メインフレームと比較して,PCサーバーの仮想化技術に欠けるのは,I/Oの仮想化や,仮想化技術の統合管理であり,この分野の進歩に注目が集まるだろう。

VMwareの強みは技術の成熟,VMotionの実用も進む

 
写真1●左から,ヴイエムウェアの名倉丈雄氏,CTCの鈴木誠治氏,マイクロソフトの田辺茂也氏
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 次にヴイエムウェア,CTC,マイクロソフトの3社の担当者が,各社の仮想化技術の現状を説明した(写真1)。最初に説明を始めたのは,ヴイエムウェアの名倉丈雄氏で,名倉氏は同社の仮想化製品「VMware Infrastructure 3(VMware ESX Serverを核にした製品群)」が,ハイパーバイザー・ベースの製品として既に3世代目に当たることや,ハイパーバイザーである「VMkernel」の信頼性が高く,2年間に渡ってノンストップで稼働させているユーザーも存在することなどをアピールした。

 また「VMotion」と呼ばれる,ある物理サーバー上で稼働している仮想マシン(VM)を,動作を一切止めずに他の物理サーバーに移行する技術が既に実用段階にあるのも強みだ。VMotionが有用なのは,ある物理サーバー上の仮想マシンの負荷が高まった場合に,同一物理サーバー上にある他の仮想マシンを,空いている物理サーバーに移動することで,サーバー・リソースを有効活用したり,物理サーバーの障害に備えたりできる点である。また仮想マシンを簡単に移動できるため,ディザスタ・リカバリも容易だとしている。

商用版の「Xen」は,シンプルな管理ツールを搭載

 オープン・ソースの仮想化技術「Xen」の現状に関しては,CTCの鈴木誠治氏が説明した。CTCは商用版の「Xen Enterprise」を開発するXenSourceの製品を取り扱うソリューション・プロバイダである。ハイパーバイザー・ベースの「Xen」について鈴木氏は「VMwareが10年かけてやってきたことを,2年で追い上げている。まだ足りない部分はあるが,もうすぐ追い付くのではないかと思っている」と語る。

 例えばXen 2.0までは,ゲストOSに改変を加えなければ仮想マシン上で動作させられなかったが(これを「準仮想化(para-virtualization)」と呼んでいる),Xen 3.0ではOSを改変しなくても動作できる「完全仮想化(full virtualization)」にも対応。Windowsに関しては,マイクロソフトとの提携も進めており,「Windows Server 2008」では,Xen上でWindowsを動かすことや,Windows Server 2008の仮想化機能上でXenのドライバなどを使ってLinuxを動かすことなどが可能になる。また,稼働中の仮想マシンを他の物理サーバーに移動する「ライブ・マイグレーション」などにも対応しているほか,サード・パーティ製の管理ツールを開発できるSDK(ソフトウエア開発キット)なども整備されている。

 XenSourceが開発する商用版の「Xen Enterprise」は,管理ツールを付属したXenである。「Xen Enterpriseのインストールは10分で可能。複数の仮想サーバーを管理するためのツールも,GUIベースのものとコマンド・ライン・ベースのものの両方を用意している」(鈴木氏)という。