写真1●アクセンチュア経営コンサルティング本部戦略グループの林智洋シニア・マネジャー
写真1●アクセンチュア経営コンサルティング本部戦略グループの林智洋シニア・マネジャー
もともと講演は同社の通信・ハイテク本部メディアエンターテイメント統括の堀田徹哉エグゼクティブ・パートナーが行う予定だったが,急遽,林シニア・マネジャーに交代になった。
 千葉県の幕張メッセで開催中の「Interop Tokyo 2007」では,IPTVに関連した展示やカンファレンスも数多い。そんな中,アクセンチュア経営コンサルティング本部戦略グループの林智洋シニア・マネジャー(写真1)が基調講演で,様々なプレーヤーが複雑に絡みあうIPTVに関して,覇権争いのシナリオを大胆に予測。来場者の関心を集めていた。

 林シニア・マネジャーは,まず日本におけるIPTVの実現方式は一つに限らず,大変複雑な状況にある点を説明した。例えばアクトビラやNGNやFTTHを使った映像配信サービスがあり,一方で任天堂「Wii」などのゲーム機でIPTVを実現できるコンソール経由のIPTVがある。さらにはパソコンをテレビに接続するような形もIPTVの範疇(ちゅう)に入るというわけだ。

 林シニア・マネジャーは,「どの方式が主役になるというのではなく,様々な機器がネットにつながる環境になるだろう」と指摘。「こうした中でIPTVに関連するプレーヤーがどのような戦略を取るべきなのかを考えるのは大変難しい。テレビのIP化による変化の方向性から,今後の戦略のシナリオを立てるべき」(同)と語った。

 テレビのIP化による変化には,2つの方向性があると林シニア・マネージャーは指摘する。まずはエンドユーザーのメディア接触スタイルが多様化。これまでは地上波放送をメインに視聴する人が圧倒的に多かったが,これからはインターネット放送や有料放送を見る人も多くなることによる変化だ。もう一つの変化としてサービスの高度化を挙げた。テキスト中心のインタフェースが3Dに進化したり,検索のようなプル型のナビゲーションから関連するコンテンツをリコメンデーションするようなプッシュ型のナビゲーションに変化する方向性だ。

写真2●サービスの多様化と高度化によって,テレビの視聴形態に4種類のスタイルが現れると予測
写真2●サービスの多様化と高度化によって,テレビの視聴形態に4種類のスタイルが現れると予測
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 林シニア・マネジャーはこの2つの変化によって,テレビの接し方には4種類のスタイルが現れると分析した(写真2)。具体的には,(1)ユーザーにとってIP化によって単にチャンネルが増えただけの状態である「IPによる多チャンネル視聴」,(2)ネット系の新しい映像メディアをテレビに取り込んだ「TVインターネットの定着」,(3)ユーザーの嗜好(しこう)に合ったコンテンツのリコメンド機能なども実現した「視聴を超えた次世代コンテンツ利用」,(4)映像のほかに様々なネット・サービスも融合した「新しいネットエンターテインメントの追求」である。

 林シニア・マネジャーは,それぞれのスタイルごとにどんな覇権争いが起こるのかを詳細に指摘した。例えば(1)のケースでは,現状と視聴スタイルはほとんど変わらず,放送コンテンツを持つプレーヤーが優位なままという(写真3)。(2)では,コンテンツの競争が激化し,チャンネルをまたいでエンドユーザーの視聴傾向を補足できるプレーヤーが市場の鍵を握る可能性があるとした(写真4)。

写真3●視聴スタイルごとにどんな覇権争いが起こるのかを分析   写真4●「TVインターネットの定着」のケースにおける覇権争いの予測
写真3●視聴スタイルごとにどんな覇権争いが起こるのかを分析
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  写真4●「TVインターネットの定着」のケースにおける覇権争いの予測
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 さらに(3)のケースでは,エンドユーザーがどんな視聴傾向にあるのか,家庭内の機器の情報を吸い上げる仕組みが重要になるとし,(4)のケースでは,エンドユーザーが多様なコンテンツを選ぶためのユーザー・インタフェースの重要度が増し,家電メーカーがキーを握る可能性があると語った。

写真5●アクセンチュアが考える,放送局がとるべき戦略の方向性
写真5●アクセンチュアが考える,放送局がとるべき戦略の方向性
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 林シニア・マネジャーは最後に,放送局や米グーグル,米マイクロソフトがそれぞれIPTVに関してどんな強みがあり,どんな戦略を取るべきなのかも紹介(写真5)。

 続けて「テレビのIP化にかかわる各プレーヤーは,各シナリオにおいて追求すべきビジネスモデルを検討した上で,コアとなる技術やケイパビリティの強化,関連プレーヤーとのアライアンスなどの戦略を明確化していくべき」(同)と語り,講演をまとめた。