日本Ruby会議2007の会場
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まつもとゆきひろ氏
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まつもと氏もエンタープライズに言及
まつもと氏もエンタープライズに言及
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JRubyの開発者,米Sun MicrosystemsのCharles Nutter氏とThomas Enebo氏「エンタープライズRubyへの道を開く」
JRubyの開発者,米Sun MicrosystemsのCharles Nutter氏とThomas Enebo氏「エンタープライズRubyへの道を開く」
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Tim Bray氏
Tim Bray氏
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 「Rubyは爆発的拡大期を迎えた」(達人プログラマで知られるDava Thomas氏)---日本Rubyの会は6月9日と10日の2日間,都内で「日本Ruby会議2007」を開催した。Rubyへの関心が急速に高まる中で,コミュニティの開発者による変わることのない「ソフトウエアを作る楽しさ」に満ちた発表が行われるとともに,企業の立場からの講演でも,Rubyへの熱いラブコールが語られた。また米Sun Microsystemsの技術者によるJRuby 1.0正式リリースの発表などで,「エンタープライズRuby」という言葉も何度か聞かれた。

 Javaで記述されたRuby実行環境JRubyの開発者,Charles Nutter氏とThomas Enebo氏はRuby会議の演壇の上でJRuby 1.0の正式リリースを宣言した(詳細記事)。2人は現在米Sun Microsystemsに勤務しており,業務としてフルタイムでJRubyを開発している。「JRubyはスケーラビリティがあり,RubyからJDBCやEJBなどの豊富なJavaライブラリを使用できる。エンタープライズRubyへの道を開く」(両氏)。

 まつもと氏も「Google,ニフティ,楽天でも利用され,Yahoo!にもDevelopment Centerができた。ゴールドマンサックスでも利用を検討している。SNSのTwitterでは毎秒1万1000リクエストを処理している。エンタープライズ領域で使えるかもしれない,というところまできた」と述べる(詳細記事)。

SaaS,Comet,Flashなどビジネスへの適用が続々

 ビジネスへの適用事例も多数報告された。

 6月にまつもとゆきひろ氏をフェローとして招聘した楽天技術研究所 代表の森正弥氏は「Ruby on Railsを楽天市場のフロントエンドに適用したところ,他の言語の1.6倍~3倍の生産性が得られた」と報告,「社内はRubyブーム。Rubyを社内標準の一つにすることを目指す」と語った(詳細記事)。

 ドリコムはRuby on RailsをB2Cサーaビス構築のための標準ツールに制定している。ドリコム 研究室長 瀧内元気氏は,既に十数のサービスをRuby on Railsで構築したと語り「Rubyは仕事に使える」と実績をもって示した(詳細記事)。

 フューチャーアーキテクトの篠原俊一氏と加藤究氏は,同氏らが開発してオープンソースとして公開した非同期メッセージング・ライブラリであるAP4Rとその適用事例について講演した。AP4Rは,フューチャーがJava上で開発し佐川急便の基幹システムなどで利用してきた非同期メッセージング機能をRuby上で実現したものだ(関連記事)。同社の社内システムのほか,Ruby on Railsの仕事情報などを集約するサイト「Working on Rails」で利用されている。

【訂正】
掲載当初「フューチャーシステムコンサルティングの関連企業であるフューチャーアーキテクト」と記述しておりましたが誤りで,フューチャーアーキテクトはフューチャーシステムコンサルティングとウッドランドが経営統合し社名変更した企業です。お詫びして訂正いたします。(2007.06.12)

 またニフティの成田智也氏は,ユーザーが協力して年表を作れるサービス「@nifty TimeLine β」の開発過程について講演した(関連記事)。TimeLineは,通常業務をこなしながら,木曜日と土日の作業で開発されたという。開発にはまつもとゆきひろ氏が在籍するネットワーク応用通信研究所も協力した。フロントエンドはFlash。現在約3万5000の記事,約2500のタイムラインが投稿され,約3000ユーザーが登録している。

 アスタリクスの大西正太氏は,Rubyで開発したグループウエアRubricksとその商用版であるBizcaについて講演した。同社では汎用的な基盤であるRubricksはオープンソースとして公開し,ビジネス向けの機能を付加したBizacaをSaaSとして有償で提供している。ユーザーインタフェースにはAjaxを活用している。

 インフォテリアの中川智史氏は,Webチャットlingr開発の裏側について語った紹介した。lingrは,WebサーバーからWebブラウザへのプッシュ型配信を行う機能Cometを利用したチャット・サービスである。Webアプリケーション部分はRuby on Railsを利用している。CometサーバーとしてJetty6を使用していたが,性能面での問題があり,C言語でCometサーバーを自作したという。

 プロトタイプではあるが,PS2のゲームにも使われていた。「くまうた」である。くまうたは宇宙熊に演歌を歌わせるというゲームだが,独立行政法人産業技術総合研究所のえとこういちろう氏は,歌詞にメロディをつけていくプログラムを最初Rubyで書いたという。ただし,実際のゲームでは,C++に書き直されている。

 しまねOSS協議会副会長で島根大学教授の野田哲夫氏は昨年設立された同会や,松江市のRuby City Matsueプロジェクトについて紹介した(関連記事)。まつもと氏が在住する松江市ではRubyを「地域資源」としてとらえ,産官学でのオープンソース・ソフトウエアを利用した地域振興を目指している。OSS協議会でのシリコンバレー調査などの活動を紹介し「いつか松江市でもRubyとオープンソースのカンファレンスを実現したい」と語った。

 また永和システムマネジメント副社長でチェンジビジョン代表取締役社長の平鍋健児氏も参加,ソフトウエアはアイディアとコミュニケーションで作られると訴えた。同社はアジャイル開発を追求するなかでJavaからRubyへと関心を広げているという。