6月8日に東京・新宿の1号店で開催されたバーガーキングのオープニングセレモニー
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写真左から順に、バーガーキング・ジャパンの笠眞一社長、リヴァンプの玉塚元一代表パートナー、バーガーキング・アジアパシフィックのピーター・タン・プレジデント、ニュージーランド大使のイアン・ケネディ氏、米バーガーキングのジョン・チッツィーCEO、ロッテの重光昭夫副社長
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 6月8日午前9時55分。
 「お待たせしました(あと5分で開店です)。ここで『ワッパー』を一生懸命作ってお届けするメンバーを紹介したいと思います」
 大柄な笠眞一社長の呼び声で、数十人の店員たちが第1号店の前に勢いよく整列。元気なかけ声とともにワッパーへの思いを込めたオリジナルソングを大合唱すると、全長2メートルはあろうかという巨大なクラッカーを取り出した。すでに店外には数百m続く来店客の行列。笠社長には安堵の笑みが浮かぶ。10、9、8、7、・・・、ドーン! 午前10時の開店時間とともに、クラッカーのひもが引かれた。

 ビーフパティを鉄板ではなく直火で焼いた直径13センチの大きなハンバーガー「ワッパー」が売りの米国のハンバーガーチェーン「バーガーキング」が日本に再上陸を果たした。都内の新宿に1号店をオープン。これに合わせて、米国本社からジョン・チッツィーCEO(最高経営責任者)が来日し、開店直前の1時間でオープニングセレモニーを開催した。日本法人であるバーガーキング・ジャパン(東京・渋谷区)の笠社長は、「2008年3月までに8店舗、3年間で50店舗を出店したい」と語る。2号店は6月22日に池袋で開店する予定だ。

 オープニングセレモニーには、ロッテ(東京・新宿区)の重光昭夫副社長、企業再生や新事業開発などの経営支援事業を手がけるリヴァンプ(東京・港区)の代表パートナー、玉塚元一氏、バーガーキング・アジアパシフィックのプレジデント、ピーター・タン氏も参加。バーガーキング・ジャパンには、ロッテとリヴァンプが出資している。リヴァンプは2005年末から国内のハンバーガー大手ロッテリア(東京・渋谷区)の再生支援を手がけており、セレモニー会場にはロッテリアのスタッフも見えた。

大衆層狙いとこだわり層狙いで住み分け


リヴァンプの支援を受けてのロッテリアの業務改革も着々と進行中。写真は3月に開催したデザートの新メニューの発表会の様子。ここで披露されたのは、ロッテリア社員が大学生と一緒に新商品を開発する「マイ・ロッテリアプロジェクト」の第1弾商品群。現在は第2弾を開発中
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 実は、バーガーキング・ジャパンとロッテリアは一種の兄弟関係にある。経営陣の何人かが重複しているのに加えて、本社を物理的に“共有”しているのだ。

 今回の日本法人の立ち上げと店舗の開店準備には、バーガーキング・アジアパシフィックのスタッフだけでなく、リヴァンプとロッテリアのスタッフが全面的に協力。具体的には、(1)経理や総務などの本社スタッフ機能、(2)食材や備品などの調達、(3)立地選定や交渉などの店舗開発、のノウハウや実務を共有している。リヴァンプの玉塚代表パートナーは、「おかげでバーガーキングの立ち上げは非常にスムーズに進んだ」という。1号店のアルバイト店員の何人かはロッテリアから送られてきた。

 さらに、バーガーキング・ジャパンの本社スタッフはロッテリア本社に同居している。ロッテリアはリヴァンプによる経営再生支援が始まった時に、ロッテ本社から出て、本社スタッフ全員がワンフロアに席を置けるビルに引っ越していた。全員の気持ちを1つにして再生作業に前向きに挑むためには、社長など経営陣も含めて全員の顔が常に見えるようにしたほうがいいと考えたからだ。実際、従来よりも風通しがよく、議論が盛んでフットワークの軽い組織になったという。バーガーキング・ジャパンの本社スタッフも同じフロアに席を構え、ロッテリアの本社スタッフと気軽に議論できるようになっている。
 
 今回の協業は、ロッテリアにもメリットがある。玉塚氏は「あれだけ高品質のハンバーガーをグローバル展開できているバーガーキングから得るものは大きい」と強調する。

 バーガーキングは世界65カ国にある。またリヴァンプから見れば、ロッテリア、バーガーキング、クリスピー・クリーム・ドーナツと複数の持ち玉ができたので、うまく組み合わせてショッピングセンターなどに出店を持ちかけやすくなった。現在、携帯電話機の販売会社と出店候補地が重なることが多く、出店場所を確保するのは簡単ではないのだ。2006年12月に新宿にオープンしたクリスピーの1号店は、いまだに数十分から数時間の行列ができるほどの人気ぶり。出店交渉の強力な武器となりうる。

 気になるのは、同じハンバーガーチェーンという業態を展開するロッテリアとの住み分けだ。バーガーキングのチッツィーCEOは、「当社の商品群は、リヴァンプのポートフォリオにうまくはまったのだろう。食い合いは心配してない。そもそも競合(マクドナルド)は日本に3800店も展開している。うちはまだ1店目なので成長機会ははるかに大きい。当社の5カ年成長計画では、日本市場は5つの重要市場のうちの1つと位置付けている」と笑顔で答えた。さらにバーガーキング・アジアパシフィックのタン氏が、「味わいや価格帯、アメリカらしい雰囲気などバーガーキングでできる店舗体験は、ロッテリアとは異なる」と補足する。

 ロッテリア社長でありバーガーキング・ジャパンの役員も兼ねるリヴァンプの篠崎真吾パートナーは、「日本で30年間親しまれてきたロッテリアとバーガーキングはターゲットが違う。ロッテリアは家族連れをはじめとした幅広い層を狙い、バーガーキングは若いビジネスパーソンや外国人、熱心なハンバーガー好きを狙う」と説明する。

 ロッテの重光氏は、「日本経済はようやくデフレから脱し、多少高価でも質の良いものへのニーズが高まり、ハンバーガー市場でもその傾向が出てきた。独特の調理法によって美味しいハンバーガーを提供できるバーガーキングなら、特にサラリーマンやOLなどを狙える」と見る。

 実際、ビール市場でも「プレミアム」をうたう商品がヒットしている。バーガーキングの日本初上陸は1993年。西武鉄道グループの西武商事と組んだ。その後、日本たばこ産業の出資を受けて1996年から本格展開を始め、20店舗以上をオープンしたものの、2001年に撤退した。今回はファストフード事業のノウハウを持つパートナーを得たうえに、日本マクドナルド出身で日本ウェンディーズ社長の経験がある笠氏を日本法人社長に迎えた。バーガーキングは“3度目の正直”に挑む。