講演する米GPTW創立者のロバート・レベリング氏
講演する米GPTW創立者のロバート・レベリング氏
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 6月7日,東京・丸の内でGPTWジャパン・フォーラム「働きがいのある会社 ベストカンパニーから学ぶ」が開催された。基調講演では,Great Place to Work Institute(GPTW)の創設者であるロバート・レベリング氏が登壇し,「働きがいのある会社を作るには,経営者と従業員,職務と従業員,そして従業員同士という3つの信頼関係をバランスよく築くことが重要」と述べた。

 GPTWは米国に本拠を置く調査会社で,「働きがいのある会社」調査を世界30カ国以上で実施している。すでに世界各国の50万人以上からサーベイに対する回答を得ており,それらを分析した結果,「働きがいのある会社は,財務的にも成功することがわかってきた」とレべリング氏は言う。

 例えば1998年~2006年において,米国で「働きがいのある会社ベスト100」に入った企業の株価上昇率は年平均で約14%。これに対し,米国の代表的な株価指数(スタンダード&プアーズ)S&P500の平均は約5%であり,株価上昇率は市場平均の3倍近い。

 レベリング氏によると,同じことが欧州でも起きているという。英国で「働きがいのある会社ベスト50」に入った企業の株価指数は,01年~06年に約70%上昇しており,同時期のロンドン株価指数(FTSE100)の約35%上昇に比べ,約2倍のパフォーマンスを達成している。

 また,従業員の生産性という観点でも,「働きがいのある会社」の上位企業は明らかな優位性があるという。GPTWでは,会社を長期欠勤している従業員の比率を世界各国で調べたところ,「ベスト100」に入った企業の平均は約2.5%となり,各国平均の5~6%の約半分という低い数字だった。従業員1人あたりの平均コストを年間で13万~14万円(1000ユーロ)ほど節約できる計算になる。

信頼関係には3つの要素がある

 働きがいのある会社は,生産性が高く,財務的にも成功することがわかった。それではどうすれば,働きがいのある会社を作ることができるのか。

 「ここで我々は1つの仮説を立てた」。レベリング氏は続けてこう語る。「高いレベルの信頼関係のある会社ほど,高い生産性(パフォーマンス)を実現する」。

 同氏によれば,信頼関係には3つの要素があるという。1つは,「従業員とマネジメントの関係:信用」。2つ目は,「職務(仕事内容)と従業員との関係:誇り」。3つ目は,「従業員同士の関係:尊敬」。

 ここでレベリング氏は,米国でも有数の大学に勤める,ある女性大学教授の話を引用した。「彼女は,自分の研究が好きで誇りを持ち,同僚や部下の研究チームにも恵まれているが,働きがいが感じられないと話す」(レベリング氏)。その理由を聞いてみると,大学の組織が非常に官僚的なのだという。研究者を縛るいろんなルールや規制があり,信用されていないと感じることが多いというのだ。

 このケースが次の事実を示している。つまり,信頼関係の3つの要素のうち,「従業員とマネジメントの関係:信用」が成立しなければ,他の2つの要素「仕事にやりがいがある」「同僚を尊敬できる」がいくら備わっていても,働きがいを感じることはできない。3つのうちどの要素が欠けてもだめなのである。

 「様々な検証をした結果,信頼関係と生産性には高い相関関係があることがわかった」と,レベリング氏は結論付け,次のように提言する。

 「個人レベルでは,やりがいのある仕事を与えてモチベーションを上げると,非常に革新的(イノベーティブ)になる。チームワークについては,協調できるカルチャーを積極的に作りあげ,信頼し,尊敬し合う環境を提供していく」。

「働きがいのある会社」は地道な努力によって作られる

 レベリング氏は最後に,「働きがいのある会社」への9つのステップを挙げ,そのポイントについて説明した。ステップは「1.雇う」「2.励ます」「3.話す」「4.聴く」「5.感謝する」「6.育てる」「7.配慮する」「8.祝う」「9.分け合う」の9つである。

 「1.雇う」について。これまで企業は,「個人のスキル」を見て,必要とする役割に見合うかを判断して採用していた。そうではなくて,「会社のビジョンやカルチャーに適合する能力があるか」つまり“才能”を見なくてはならないと,同氏は主張する。

 「2.聴く」,すなわちマネジメントが従業員の声にどのようにして耳を傾けているか。その仕組みを作り出すことは,非常に重要である。日本の第1回調査でトップになったリクルート・エージェントは,経営層のスケジュールに従業員が誰でも予定を書き込めるというオープンドア式のしくみ持っている。マネジャーのスケジュールを透明化することで,従業員の信頼性を高めている例だ。

 「7.配慮する」については,10位にランクインしたアサヒビールのブラザ-制度を紹介した。これは新入社員が入社した時,1人1人に先輩の担当者を決めて,うまく溶け込めるようにリードしていくというもの。こうしたきめ細かい配慮によって,同社は日本でも有数の離職率が少ない会社になっている。

 「人間は,人生の大半の時間を会社で過ごす。働きがいがあることは,本当に幸福なことだ。マネジャーの皆さんにとっては,働きがいのある会社を作ることが,最高の社会貢献になる」とレベリング氏は語り,講演の参加者にエールを送った。