写真1●三井ダイレクト損害保険 事業部ゼネラルマネージャーの高崎誠治氏
写真1●三井ダイレクト損害保険 事業部ゼネラルマネージャーの高崎誠治氏
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図1●三井ダイレクト損害保険の収入保険料の推移
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 6月6日,東京・六本木の東京ミッドタウンで開催中のNET Marketing Forumで,三井ダイレクト損害保険 事業部ゼネラルマネージャーの高崎誠治氏が登壇。マスメディアからネットへの大胆シフトを図り,20%の収入増を達成したマーケティング戦略について講演した(写真1)。

 同社は,通信販売の保険会社として2000年6月に開業。当初は電話やダイレクトメールによる販促が中心だったが,2001年12月にインターネット販売を開始した。自動車保険の市場は,3600万台という限られたパイを競合他社と取り合っているが,全保険料収入のうち,通販会社のシェアは6.1%に過ぎない。

 「まだまだ成長の余地はある」と高崎氏。問題は,効果的なマーケティング手法によっていかにしてシェアを拡大するかにある。順調に伸びていた保険料収入は,数年前から徐々に鈍化し始めていた。見込み客を増やすためにマスメディアに広告を打ち続けるものの,広告効果が下がり始め,1件当たりの顧客獲得コストは高くなっていく。一方で,保険商品の比較サイトからの見込み客が増え始め,厚い補償内容を維持しながら保険料を抑える必要に迫られていた。

 そうした中,同社が取ったマーケティング戦略は,ネットへの大胆なシフトだった。だが簡単に事が進んだわけではない。「テレビCMや新聞広告の露出を減らして認知度が一気に落ちないか,ネットだけで本当に大丈夫なのかという意見が社内に噴出し,昼夜を徹して議論に明け暮れた」という高崎氏は,経営層を説得することが特に困難だったことを明かす。

 結局,ネットへの転換は断行された。マスメディア広告をやめ,出稿をWebに特化した。同時に募集や契約へと結びつける体制も一気にWebにシフトした。当初はコールセンター経由の新規入電数(電話による申込件数)の減少や,認知度の低下による成約率の低下が懸念されたが,そうした状況にはならなかった。

 そこで同社はネットならではの保険商品を投入し,一気に攻勢に出る。「eサービス割引」がそれで,「紙の証券は不要」という顧客に対して保険料を500円引きする業界初のサービスを提供した。印刷費,郵送費,印紙税が浮いた分を顧客に還元したのである。こうした戦略によって次第にオンライン保険会社としてのブランド力を高めていった。

 ネットへのシフトを進めた2006年,同社の保険料収入は対前年比22%増の224億6000万円,契約数は同25%増の50万件となり,鈍化しつつあった成長率に一気に弾みをつけた(図1)。もちろん通販保険業界の中でトップの成長率となり,市場シェアも業界5位から3位に躍進したという。

 「Webマーケティングで成果を上げることができたが,万能とは思っていない。テレビは認知度を上げるためには最高のメディアであり,新聞は説得力のあるメディアだ。要するに,顧客を獲得するのか,認知度を上げるのかなど,マーケティングの目的を明確にし,メディアを使い分けていくことが重要なのだと思う」と高崎氏は語る。今後は,自動車保険のオンライン販売を強化しながら,新しい保険商品やサービスの開発も手がけていきたいという。