米Microsoftが2008年にリリースする予定の次期データベース「SQL Server 2008」(開発コード名:Katmai)は,現バージョンの「SQL Server 2005」のようなアーキテクチャを一新する「メジャー・バージョンアップ」ではなく,コアには手を着けずに現実的な機能を追加した「マイナー・バージョンアップ」になりそうだ。現在開催中の「TechEd 2007」で,同社が概要を説明した。

 米MicrosoftでSQL Serverの開発を担当するDavid Campbell氏は,「(現バージョンの)SQL Server 2005では,開発チームの規模が何百人にも膨れ上がり,何ができているのか把握するのが難しく,リリースが大きく遅れた」と反省の弁を述べた。SQL Server 2008は,その反省に立って,開発のプロセスを変えたという。「SQL Server 2008では,シーンやシナリオに基づいて,どのような機能を開発すべきか決めた」(Campbell氏)。アーキテクチャの一新などを目指すのではなく,現実的なシナリオに基づいた機能を追加することだけを目指したのが「SQL Server 2008」だというのだ。

 Microsoftは現在,SQL Server 2008の最新評価版「June CTP(コミュニティ技術プレビュー)を,同社のWebサイトで公開している。今回の記事では,TechEd 2007のセッションで公開された「SQL Server 2008の概要」の一部を紹介しよう。

 SQL Server 2008における機能追加は,「Enterprise Data Platform(企業ニーズに適したデータ基盤)」,「Beyond Relational(従来のリレーショナル・データベースの姿を超えた利用シーン)」,「Dynamic Development(アプリケーション開発の容易性)」,「Pervasive Insight(ビジネス・インテリジェンス機能を全ユーザーに拡張する)」--という4つのコンセプトに従って行われているという(写真1)。

写真1●SQL Server 2008における機能追加のコンセプト
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 Enterprise Data Platform(企業ニーズに適したデータ基盤)というコンセプトの意図は,「セキュリティの高さ」である。現在,世界中のほぼすべての大企業が,内部統制対応といったセキュリティの要件への関心を高めている。そこでSQL Server 2008では,(1)業務アプリケーションに手を加えずにデータを暗号化できる機能,(2)ユーザーが設定するルール(ポリシー)に基づいてデータベースの利用をモニタリングする「監査機能」(写真2)を追加する。

写真2●SQL Server 2008では,コンプライアンス要件に基づいてデータベースの利用を監査できる
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「SQL Server 2008はファイル・システムだ」

 2つ目のコンセプトであるBeyond Relational(従来のリレーショナル・データベースの姿を超えた利用シーン)についてCampbell氏は,「SQL Server 2008は,リレーショナル・データもXMLも,ドキュメントも,すべてのタイプのデータを格納できるデータベースである」と説明する。「Microsoftは過去,WinFSや『トランザクショナルNTFS』など,トランザクショナル・ファイル・システムを実現すると言っておきながら,果たせていない。このトランザクショナル・ファイル・システムが,SQL Server 2008で現実のものになる」(Campbell氏)。

 もちろん,データを収めるだけであれば,SQL Server 2005でも可能である。SQL Server 2008では,リレーショナル・データと非リレーショナル・データの変換機能や,「リレーショナル・データとテキスト・データの両方に対して行われるクエリー」などの機能を追加することで,様々なデータ・タイプを格納した場合の使い勝手を改善しているという。

 またSQL Server 2008は,Microsoftの地図プラットフォーム「Virtual Earth」とも統合されているほか,「LOCATINデータ型」や「SPATIALデータ型」といった,地図アプリケーションに特化したデータ型も追加している。これによって,地図アプリケーションの開発が容易になっているという。

 3つ目のコンセプトであるDynamic Development(アプリケーション開発の容易性)に関しては,SQL Server 2008がオブジェクト指向プログラミング・モデルと手続き型のT-SQLとをつなぎ合わせる開発モデル「LINQ(Language Integrated Query)」に対応していることなどが強調された。

BI機能を「全従業員にもたらす」

 4つ目のコンセプトであるPervasive Insight(ビジネス・インテリジェンス機能を全ユーザーに拡張する)に関しては,SQL Server 2008でデータウエアハウス機能がより強化されることが披露された。データウエアハウスで用いられる巨大なテーブルに対するクエリー処理性能を改善。さらに,大容量ではあるがディスクそのものの性能が落ちる安価なストレージ装置をデータウエアハウスに利用できるよう,I/O処理性能も大幅に改善するという。

 また,ビジネス・インテリジェンス(BI)機能の根幹である「Reporting Service」についても,処理性能の拡大を図り「大企業の従業員に対して,レポートを提供できるようなプラットフォームを目指す」(Campbell氏)という。現在のSQL ServerのReporting Serviceは,経営層に対するレポート作成を想定して作られており,処理性能は高くない。処理性能を引き上げて,より多くのユーザーにBI機能を使ってもらうことが,SQL Server 2008の目標になる。ちなにSQL Server 2008のReporting Serviceでは,従来の「Excel文書」に加えて「Word文書」でもレポートを発行できるようになるという。