ウィルコム 執行役員副社長の土橋匡氏(左)と東芝 モバイルコミュニケーション社 統括技師長の岡本光正氏
ウィルコム 執行役員副社長の土橋匡氏(左)と東芝 モバイルコミュニケーション社 統括技師長の岡本光正氏
[画像のクリックで拡大表示]
6年ぶりとなる東芝のPHS新機種「WX320T」
6年ぶりとなる東芝のPHS新機種「WX320T」
[画像のクリックで拡大表示]

 東芝は2007年5月31日、PHS市場に再参入することを発表した。7月上旬にウィルコム向けの音声端末1機種を発売する。2001年に旧DDIポケット向けPHS端末の開発を終了して以来、6年ぶりの再参入を果たす。

撤退の背景にKDDI内の棲み分け論

 同社は「Carrots」のシリーズ名で、1995年から2001年にかけてDDIポケット向けにPHS端末を製造していた。しかし当時の移動体通信市場では、PHSが携帯電話に押されて縮小傾向にあり、それに伴う販売不振から東芝も撤退を余儀なくされている。その背景には、移動体通信市場におけるPHSの位置付けと、KDDIグループにおけるPHS事業の位置付けの変化がある。

 PHSは当初、携帯電話より安価であることを大きな訴求点の1つとしていたが、1990年代後半に携帯電話が端末価格・通話料とも年々値下がりし、PHSの優位性を奪う形で市場拡大していった。2000年10月に、国際電信電話(KDD)、第二電電(DDI)、日本移動通信(IDO)の通信3社合併によりKDDIが誕生。これに伴いDDIポケットは、KDDIグループの移動体通信事業者の1社となった。その後、KDDIグループ内に3社あった移動体通信事業者の棲み分け論が出てきた。携帯電話事業の主軸にauを置き、DDIポケットはデータ通信に特化、ツーカーはシンプル携帯を担うというものだ。こうした棲み分けがなされた結果、「メーカーに対してまとまった台数の端末を発注することが難しくなり、市場の(PHS端末に対する)ニーズを具現化できなくなった」(ウィルコム 執行役員副社長の土橋匡氏)ことで、PHS端末の新規開発が大幅に縮小され、東芝をはじめPHS端末を手掛けていたメーカーの多くも撤退を余儀なくされた。

ドコモ向けは「開発負荷大きく、存在感も出しにくい」

 今回、東芝が再参入を果たしたのは、PHSをめぐる情勢が改善しつつあることが大きい。KDDIは2004年、DDIポケット株を米投資ファンドのカーライル・グループに売却。社名もウィルコムに変更し、名実ともにKDDIグループから外れた。棲み分け論による束縛から離れたことで自由な戦略策定が可能になったのである。2005年には音声通話定額制「ウィルコム定額プラン」の提供やスマートフォン「W-ZERO3」の発売といった施策を矢継ぎ早に打ち出した。この結果、2006年度は通期で63万5000契約の純増を記録するなど復調が鮮明になっている。

 こうした背景を踏まえ、ウィルコムから東芝に再参入の打診があったという。「契約数が大きく増えている中での打診であり、再び成長市場となったPHS市場を放っておいて良いのかと、社内で話し合った。PHS端末の発売により、事業拡大を狙えると判断した」(東芝 モバイルコミュニケーション社 統括技師長の岡本光正氏)。

 東芝はちょうど、海外向け端末事業から撤退を決めたところでもあり、新規事業に振り向けられる開発資源を持っていた。同社が現在手掛けているのは、KDDI向けとソフトバンクモバイル向け端末。NTTドコモ向けは、「3~4年前にFOMA端末を出したことがあるが、初期のころは3G端末そのものの開発負荷が大きかった。その後もiモードなどの技術開発に追随できず、商品のメリットを打ち出すことができなかった。今から新規開発するにも、10社近くが端末を提供している現状にあって、東芝としての独自性を提示して存在感を出すことは難しい」(岡本氏)。結果として、現時点での参入メーカーが少ないウィルコム向けに再参入して一定のシェアを確保し、さらに将来の契約数拡大に期待する方がメリットが大きいと判断した。

ハード、ソフトの外部調達で低コスト化

 7月上旬に発売する音声端末の「WX320T」の価格は、「新規契約時で1万円前後を見込んでいる」(土橋氏)。KDDIやソフトバンクモバイル向け端末に比べ低価格である分、利幅も稼ぎにくい。これについては、自社開発を極力抑え、外部調達したモジュールを多く活用することで開発コストを抑えることで対応した。「PHSは技術的に枯れた技術。RFトランシーバーICやベースバンドLSIなどの主要部品を自社開発しなくても、外部調達して実装しても問題なく開発できる」(岡本氏)。ソフトウエアも、Webブラウザー、メールソフト、Java実行環境、文書ビューワーなどをACCESSから一括で仕入れて組み込んでいる。