声明文を読み上げる、著作権を考える創作者団体協議会 議長の三田誠広氏
声明文を読み上げる、著作権を考える創作者団体協議会 議長の三田誠広氏
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 日本文藝家協会や日本音楽著作権協会(JASRAC)など著作権関連の17団体で組織する「著作権を考える創作者団体協議会」は2007年5月16日、デジタルコンテンツ流通に際し権利者に強制許諾を求める制度の設立に反対する声明を発表した。経済財政諮問会議において、現行の著作権法とは別にデジタルコンテンツ流通に関する新法の設立を検討しており、これに待ったをかけるものである。同協議会は同日会見し、経済財政諮問会議の法制化の動きに対し「強制許諾制度の導入は権利者にとって多大な損害となるだけでなく、ベルヌ条約や世界知的所有権機関(WIPO)の著作権条約に違反にもつながり、大変な事態になる」として強く非難した。

デジタルコンテンツ対象に、裁定制度拡大の動き

 現行の著作権法では、著作物の二次利用に際し「裁定制度」という仕組みを設けている。利用しようとする著作物の権利者が不明で、相当の努力をしても判明しない場合、文化庁への申請と補償金の支払いなどを条件に、文化庁が権利者に代わって二次利用を許諾する仕組みである(文化庁による制度解説ページ)。

 この裁定制度は、2007年の文化審議会 著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(保護利用小委)において見直しが予定されている。現行制度が手続きや費用などの面で使いにくく、実利用が困難であるとの声が多くあることを踏まえ、制度の見直しを図るものだ。

 こうした声とともに、「インターネットの普及により多くのコンテンツが流通するようになった現状を踏まえ、ネット上でのコンテンツ流通を妨げないよう制度を見直す必要がある」といった意見もある。とりわけ、映画など多くの権利者が存在する著作物では、1人でも許諾を出さない人がいるとコンテンツの二次利用ができない。これが「過去の優れた著作物を死蔵する原因になっている」と問題視する意見もある。

 経済財政諮問会議ではこうした状況を踏まえ、現行の著作権法とは別に、デジタルコンテンツに特化した著作物の利用ルールを新法として創設することを検討している。2007年2月27日には、経済財政諮問会議の4委員が「デジタルコンテンツ市場を飛躍的に発展させるため、世界最先端のデジタルコンテンツ流通促進法制を2年以内に整備すべきである」との意見書を出していた。この中には「全ての権利者からの事前の許諾に代替しうる、より簡便な手続き等」と明記されている。つまり、現行の裁定制度を拡大し、権利者不明の場合に加え一部の権利者が二次利用を拒否しているような場合でも、一定の補償金を支払えばインターネット上でのコンテンツ流通を強制的に許諾するといった仕組みを視野に入れている。権利者団体が反発しているのは、こうした強制許諾システムの導入である。

「ベルヌ条約やWIPO著作権条約にも違反」

 17団体を代表して声明を読み上げた日本文藝家協会 副理事長の三田誠広氏は、「著作権法と別に新法を作ってしまうと、今までの著作権をめぐる取り組みが無になってしまう」とした。

 三田氏はまた、「政府や日本経団連の一部の人たちは、日本の著作権制度が厳しすぎると思い込んでいるようだが、誤解している」と指摘。「米国の著作権法には、権利者に無断で著作物を二次利用しても、一定の条件下であれば法的責任を回避できる、フェアユース規定がある。これを念頭に置いているのかもしれないが、フェアユース規定の背景には多数の訴訟があり、利用者が賠償を命じられるケースが多くある。また、権利者と利用者とが事前示談を持ち、『どこまでがフェアユース規定の範囲内か』と話し合っている事例も多い」として、フェアユース規定が一概に使いやすいとは言えないとの認識を示した。

 また日本音楽著作権協会 常務理事の加藤衛氏は、「ベルヌ条約やWIPO著作権条約では、公衆送信権を著作権の一部として認めている。新法で公衆送信権を切り下げ、ただの報酬請求権とすることは、これらの条約に違反することになる」と述べた。

 17団体は代替案として、著作物の権利者情報をまとめたデータベースの構築により、権利者を調べたり連絡を取ったりする手続きを簡素化することを提唱している。「コンテンツが流通しない原因の一つは、権利者が分からないということ。従来のCDならば、ジャケットにスタッフ名が書いてあったが、インターネット上ではむきだしのコンテンツが流れている。こうした中で、インターネット上のコンテンツでも権利者が分かるよう、メタデータの整備を行政として進めるべき」(日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター運営委員の椎名和夫氏)。

 あらゆるコンテンツの権利者情報を網羅するデータベースの構築は困難ではないかとの質問に対しては、「我々が考えているのは、作品を発表して何らかの収入を得たいと表明し、権利者団体に加入するような人たちを対象にしたデータベースである。これなら網羅性を確保できると考えている」(三田氏)、「分野にもよるが、音楽業界であればJASRACが既にデータベースを構築済み。許諾条件など細かい内容も含んだデータベースにするかどうかは、各分野ごとに判断することになるだろう」(加藤氏)と説明し、実用的なデータベースの構築は可能であるとの考えを示した。

 17団体は、5月17日にも文化庁を訪問し声明文の内容を提言する予定としている。