仏Business ObjectsのCEO(最高経営責任者)であるJohn Schwarz氏
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 BI(ビジネス・インテリジェンス)ソフト大手の仏Business Objectsは,次世代のBIを意図したコンセプト「BI 2.0」を掲げるベンダー。エンドユーザーがIT担当者の手を借りずに日々の業績をドリルダウンして分析するリアルタイムBIを進め,CRM(顧客情報管理)ソフトのSalesforceなど各種の業務アプリケーションからデータを取得し,ダッシュボード上にマッシュアップする。

 2007年5月11日,同社CEO(最高経営責任者)のJohn Schwarz氏が来日し,BIの活用事例を披露した。以下,Schwarz氏による5社の事例紹介を列記する。

不正取引を水際で食い止めたMasterCard

 ハリケーン「Katrina」の被災者を撮影した写真が,クレジットカードの不正利用を誘発したという事件があった。赤十字は,被災者が食事を取れるようにマスターカードを被災者に配布したのだが,クレジットカードの番号や有効期限が写りこんだ被災者の写真が世界に公開されてしまったのだ。2分後には,カード番号を見た人によって,フェラーリを買う用途で6万7000ドルが使われようとしていた。

 ところが,MasterCardでは,カードが使われた場所と発行場所が異なることを検知し,取引を停止できた。MasterCardはBIを活用しているから助かったのだ。

レコードなどを数分以内で出荷できる倉庫事業者のIron Mountain

 James Marshall Hendrix(Jimi Hendrix,ジミヘン)の音楽は今でも生きており,BIが彼の音楽を管理している。米Iron Mountainは,BIを活用して,49カ所の倉庫を運営する倉庫事業者である。英EMIから倉庫保管中のJimi Hendrixのレコードを届けるよう依頼があったときに,どの倉庫のどの場所にあるのかを調べ,数分以内で出荷することができるのだ。

医療機器メーカーと病院の“ハブ”となるOwens & Minor

 業界のネットワーク作りにBIを役立てている企業が,米Owens & Minorである。病院向けに病院機器/器具を提供する販売会社だ。4000社に及ぶ機器/器具製造メーカーの製品カタログを集約し,複数の病院からのオーダーをさばいている。複数の製造メーカーと複数の病院とのマッチングを管理して,価格とロット数のバランスを制御している。こうしたサプライ・チェーンの上手な運営は,BIが非常に適している好例である。

利益の大幅向上を達成したパリのDisneyland


複数の業務アプリケーションをマッシュアップしたダッシュボード画面。利益率をリアルタイムにメーター表示している
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 リアルタイムに収集した情報を基に従業員に的確な指示を出している例が,Business Objectsの本社があるパリの「Disneyland」である。BIを活用することで,利益を米国フロリダ州オーランドにある「Walt Disney World」に次ぐ第2位にまで引き上げることに成功した。

 従来,パリのDisneylandは入場者数こそ米国のWalt Disney Worldに匹敵していたが,利益率は半分しかなかった。原因は天候である。

 晴れの日が多いオーランドに比べて,パリは天候の変化が激しく,雨の日が多い。天候の変化に合わせて客の流れを誘導することで,利益を向上させることに成功した。入場ゲートやアトラクション,キオスクやレストランといった場所にBIのダッシュボードを設置し,従業員が携帯するBlackBerry端末に指示を出すシステムである。

牛乳の品質管理にBIを活用するOrganic Valley Family of Farms

 取引先を含めたコミュニティをBIで形成しているのが,牛乳ベンダーの米Organic Valley Family of Farmsである。牛乳の生産過程における品質管理のための合計39回の検査工程と結果を,BIで管理している。

 牛乳製品は,どの農場のどの牛から採取した牛乳を用いているかが分かるようになっており,米Organic Valley Family of Farmsでは,農場から提出されるMicrosoft Excelデータを取り込み,BIで分析/管理する。BIから農場への情報のフィードバックも実施することで,個々の農場の生産計画にも役立つ。個々の農場は横のつながりは無いが,米Organic Valley Family of FarmsのBIを通じて,農場全体がコミュニティとなるのだ。

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 あらゆる企業は,BIによって競争力を獲得しない限り,生き残ってはいけない。日本はまだERP(統合業務パッケージ)の導入に代表されるような業務アプリケーション環境の整備が終わっておらず,コンプライアンス(法令順守)への対応や企業統合といった目の前の案件に追われている。このように米国や欧州よりも遅れているのが実情だが,BIが入り込むための素地が整ったあとで,いずれBIの活用が進んでいくだろう。(事例紹介を含めてSchwarz氏談)