「ICタグがもたらす最大の価値は、店内での販促活動の実施率を向上させられること。売り上げを10%向上させる効果がある」――。 米オーランドで4月30日~5月2日に開催された無線ICタグの専門イベント「RFID Journal LIVE! 2007」での講演で、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のマーク・モロー・コーポレート・エンジニアリング技術研究所EPC技術リーダーは、そう言い切った。その投資効果は9倍。つまり1ドル投資すれば、9ドルの利益が得られる状態だという。

 米ウォルマート・ストアーズは2005年1月から、納入業者(サプライヤ)に対して、商品の段ボール箱とパレットに対してICタグを張り付けることを要請している。その投資によって、サプライヤ側が利益を得られるのかどうかが、これまでの最大の焦点だった。サプライヤとウォルマートの双方に利益を生んでこそ、ICタグの張り付けが広がるからだ。P&Gによれば、そのサプライヤの最大の利益が、販促活動の促進だという。

 ここでいう販促活動とは、販促用のディスプレイを店頭に展示することを挿す。商品を満載した棚やワゴン、POPなどを店頭に置き、サプライヤ自身がキャンペーンで値引きをするといった販促活動が、ウォルマートの店頭では毎日のように実施されている。そのための販促用ディスプレイが、「キャンペーン開始日など適切なタイミングに店頭に出される割合は45%しかない」(モロー氏)という。これがICタグを使えば90%にまで向上できる可能性があるという。

 ICタグは販促用ディスプレイに付けておく。ウォルマートは既に1000カ所の店舗にICタグ・システムを導入しており、ICタグ・リーダーをバックヤード(店舗の倉庫)の荷受け口や、バックヤードと店頭の間の設置している。ディスプレイが各店舗に到着したかどうかは、これまでも到着時にバーコードを読むなどして把握できていた。問題は、それが適切な日に店頭に出されるかどうかである。そのチェックにICタグを使う。店頭に出されたかどうかが、バックヤードと店頭間に設置したリーダーによって、確認できるのだ。

 この販促ディスプレイが適切な日に店頭に出ているかどうかで売り上げは大きく上下する。これがICタグによって、10%の売り上げが増えるというからくりである。

 クリネックス・ブランドなどで著名な米キンバリー・クラークは、こうしたICタグによる販促活動の促進を半年以上にわたって実施し、実際にディスプレイの展示率を20%向上させた。これによって、これまでのICタグへの投資は回収できたという。商品の段ボール箱やパレットに付けたICタグの活用に向けたシステム化も着実に進めている。その実現方法の詳細は日経コンピュータ6月11日号で詳報する予定だ。