写真1●左から2人目よりIBMのPaul Bloom氏,MicrosoftのEric Horvitz氏,IntelのJerry Battista氏。両端2人はGartnerのモデレータ
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 米国サンフランシスコで開催中の「Gartner Symposium/ITxpo 2007」で4月25日(米国時間),米Microsoft,米Intel,米IBMの研究機関の幹部が出席して,自社の取り組みを紹介するというセッションが開かれた(写真1)。

 優れた研究者を抱えることで知られる3社だが,研究機関の在り方には「各社らしい」特徴が見てとれた。

人が接した情報をすべて記録するというMicrosoft

 最初に話し始めたのは,米MicrosoftのPrincipan ResearcherであるEric Horvitz氏。Microsoftの研究機関には,700人の研究者が在籍し「インタフェース研究や言語研究の分野では,世界最高の水準にある」(Horvitz氏)と誇った。Horvitz氏が紹介した「同社が注力している研究分野」は,マウスやキーボード操作に限らない人の動作を認識して働く新しいユーザー・インタフェース技術や,「Life Browzer」と呼ぶ「人が接した情報をすべて記録する」技術など。いずれもMicrosoftらしく,パソコン(または個人的なデジタル・デバイス)に関連する技術であった。

 Horvitz氏はパソコンのようなデバイスが「個人の活動パターンを学習することで,人生で記録しておくべきイベントを,自動的に記録してくれる機械になるだろう」と予測する。撮影した写真や動画,デスクトップ上での検索結果や行動履歴,起動したアプリケーションやそのイベント,GPSと連動した移動履歴情報──。そういったものを自動的に記録し続けるのが「Life Browzer」(写真2)になる。

写真2●あらゆるものを記録する「Life Browzer」
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 しかしHorvitz氏はこうも問いかける。「しかし皆さん,われわれが『ハーイ,マイクロソフトです。あなたの情報を私たちがすべて管理しましょう』と言って,その言葉を誰が聞き入れるだろうか?」。

プライバシがパソコンを復権させる

 センサーを使って個人の情報を蓄積し,それを機械的に学習して,人間の行動を調査する。コンピュータがこれらを行うことで,デジタル機器の使い勝手は上がり,データはより有用になる。しかしそこには,プライバシの問題が常に横たわる。「われわれも,プライバシーと利便性,セキュリティと利便性,これらのトレードオフは常に意識している」(Horvitz氏)。

 そこでHorvitz氏は「プライバシーを考えたなら,データマイニング・センターを,サーバーではなくユーザーのローカル・コンピュータに作るしかない」と主張する。名前こそ出さないが,明らかに米Googleを意識した発言であろう。パソコンは(はたまたMicrosoftは)死んだなどと思われているが,プライバシのことを考えたら,今後もユーザーの手元には強力なパソコンが必要になる──。Horvitz氏はMicrosoftの研究者らしく,そう主張したわけだ。

製品グループごとに研究部門があるIntel

 続いて話し始めたのは,IntelのTechnology Management担当DirectorであるJerry Battista氏。Intelは年間900億ドルの研究開発投資を行っており,「それぞれの製品グループが研究部門を持っていて,北米だけでなく,アジアでも南米でも研究を行っている」(Battista氏)という。

 あくまでIntelらしく,Battista氏が披露したのもプロセッサに関する話題だった。現在Intelでは,プロセッサの多コア化を進めている。そんなにたくさんのプロセッサ・コアがなぜ必要なのか。Battista氏はIPTV(インターネット経由でのテレビ配信)を例に「多コア化したプロセッサがあれば,サッカー中継なども,選手がどこにいて,ボールがどこにあるのか,フリーなポジションにいる選手がどこにいるのかをリアルタイムで把握して,それを画面上にハイライトできるようになる」とアピールした(写真3)。

写真3●多コア化時代のサッカー中継のイメージ
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「研究もサービスだ」とするIBM

 最後に話をしたのは,IBMコミュニケーション部門の研究所でBusiness Executiveを務めるPaul Bloom氏。IBMは3200人の研究員を抱えるが,Bloom氏は研究所の目的を「パートナとテクノロジを共有して,テクノロジの商業化を推進すること」と言い切る。顧客企業に「これは面白いテクノロジだ,ぜひライセンスしてくれ」と言わせることが,彼らのミッションなのだという。

 Bloom氏が注目する技術として紹介したのは,「プレゼンス(ユーザーがどこにいるのかを把握してコミュニケーションに役立てる技術)」。セッションでは,医療分野で携帯機器とプレゼンス技術を組み合わせることで,どれだけ適切な医療活動が提供できるかをアピールした(写真4)。

写真4●IBMが注目するのはビジネス分野でのプレゼンスの活用
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 Bloom氏は,「今のITシステムの80%には,プレゼンスの機能がない。単なる情報をビジネスに活用できる有益な情報にするのは,プレゼンスのテクノロジだ。プレゼンス機能があれば,誰が誰とコミュニケーションをしていて,それがどんなコンテンツなのか把握できるようになる。コール・センターでも,お客さんがなぜ怒っているのか把握できれば,より適切な対応が可能になるだろう」と語った。

 パソコン技術に注力し続けるMicrosoft,プロセッサをより強力にしようとするIntel,そして研究員もサービス分野に投入するIBM──。それぞれの企業が何に注力しているのかが,研究所の姿勢からよく理解できるセッションであった。