写真1●米GartnerのVice PresidentであるJeff Woods氏
[画像のクリックで拡大表示]
 「企業情報システムのWeb 2.0化が進まないのは,業務アプリケーション・ベンダーに責任がある。ユーザーはベンダーに対して『Web指向アーキテクチャ』を採用するよう圧力をかけるべきだし,そうでないベンダーとは関係を見直した方がいい」。米GartnerのVice PresidentであるJeff Woods氏(写真1)は,サンフランシスコで開催中の「Gartner Symposium/ITxpo 2007」でこう主張した。

 ここで言う「Web指向」とは,「Webブラウザで使えるアプリケーションにする」という意味ではない。サービス志向アーキテクチャ(SOA)を採用しており,Webサービスなどを使って他のシステムと容易に連携できるという意味の「Web指向」である。

 Woods氏の演題は,「Enterprise Applications in a Web-Centric World(Web中心時代の業務アプリケーション)」。Woods氏は,「米SAPや米Oracle,米Microsoftなど主要な業務アプリケーション・ベンダーは,自社のアプリケーションがSOAを採用しており,『エンタープライズ・マッシュアップ』が容易などと言うが,実装は極めて難しい」と断言した。その理由は,各アプリケーションが本当にWeb指向アーキテクチャにはなっていないからだと説明する。

 「ユーザー企業はベンダーに対して,Web指向アーキテクチャを採用するよう圧力をかける時期に来ている。もしそうならないのであれば,ベンダーとの関係を見直した方がいい。2010年までには『マッシュアップができるかどうか』が,業務アプリケーションを選ぶ決め手になっているだろう」。Woods氏は,ユーザー企業のCIOなどが中心を占める聴衆に対してこう訴えかけた。

ブラウザよりもリッチなユーザー・インタフェースに注目せよ

写真2●米GartnerのVice PresidentであるDavid Cearley氏
[画像のクリックで拡大表示]
 そもそもGartnerが「企業情報システムのWeb 2.0化が必然」と見なす理由はどのようなものだろうか。もう1人の講演者である米GartnerのVice President,David Cearley氏(写真2)は,Web 2.0がSOAやWebサービスを前提にした動きであり,Web 2.0と企業情報システムが目指す方向が同じだからだと説明する。Cearley氏は「企業情報システムも,コンシューマ向けのアプリケーションも,『Webセントリック(Web中心)』に向かいつつある。この動きは止まらないだろう」と語る。

 ここで言うWebセントリックの「Web」も,もちろん「Webブラウザで使えるアプリケーション」という意味ではない。Web 2.0というとAjaxを使ったアプリケーションというイメージがあるが,「本当に重要なのは,リッチ・ユーザー・インタフェース・アプリケーション(RIA)が主流になったということ。AjaxはRIAの一部に過ぎない」(Cearley氏)。

 むしろAjaxには,「Webブラウザでしか使えない」「オフラインで使えない」「セキュリティ上の制限がある」といった弱点がある。仮想世界の「Second Life」のような,デスクトップ・アプリケーションを使ったサービスも注目を集めている。Cearley氏は,「今後は『進化したユーザー・インタフェース(UI)』を中心に考えるべきだろう」と訴える。

パートナーや消費者をも巻き込んだ「マッシュアップ」こそ重要

 では,企業情報システムがWeb 2.0化することによって得られる利点とは何か。一番魅力的なのは「マッシュアップ」だが,企業情報システムにとってのマッシュアップは,「Googleマップのサービスをマッシュアップして不動産情報サイトを作る」などという単なるアプリケーション連携にとどまらないという。Woods氏は,本当のエンタープライズ・マッシュアップとは,「サプライヤ・マッシュアップ」であり「コンシューマ・マッシュアップ」だという。

 つまり,自社の業務プロセスをWebサービスとして開放し,サプライヤやコンシューマ(消費者)が業務プロセスにかかわれるようにする。これが企業情報システムのWeb 2.0化の肝なのだという。

 「企業情報システムのWeb 1.0,つまり『E-Business』の特徴は,消費者が企業のWebサイトで商品を注文できるようにするという『セルフ・サービス化』にあった。企業情報システムのWeb 2.0は,『超セルフ・サービス化』になる。つまり,消費者やパートナーに対して業務プロセスを可能な限り公開して,消費者やパートナーがやりたいことを彼らに直接やってもらう。そうすれば,サポート・コストの低減やユーザーからのより良いフィード・バックの収集,パートナーとのより密接な連携が,低コストで可能になるだろう」。Woods氏はそう強調した。